既報の通り、ウォッチガード・テクノロジーはAPAC(アジア太平洋地域)のパートナー企業向けのイベントを開催したが、このイベントでは、市場調査会社 フロスト&サリバンのアナリスト エディソン・ユー氏によってAPAC地域におけるネットワークセキュリティ市場の現状を示すデータも明らかにされた。ユーザー企業にとっても今後のセキュリティ製品導入の際に役立つと思われるため、本稿ではその内容をお伝えする。

大手がシェアを落とし、専業メーカーが伸びる

ユー氏は、成長を続けるAPAC地域におけるネットワークセキュリティ市場での競合状況を"専業ベンダー(Pure Plays)"、"ネットワークの巨人(Networking Giants)"、"市場破壊者(The Distrupters)"、"ローカルベンダー(Local Vendors)"の4つに分類している。

成長を続けるAPAC地域におけるネットワークセキュリティ市場

APAC地域におけるネットワークセキュリティ市場の競合(プレーヤー)マップ

同氏が示した示した資料によれば、この市場ではここ数年シスコやジュニパーネットワークスといった大手がシェアを落とす一方、逆にチェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズやフォーティネットなどの専業ベンダーがシェアを伸ばしているとされている。

APAC地域におけるネットワークセキュリティ市場のシェア推移

この主な理由としてユー氏は、ITやWebの普及に伴う"一般化"を背景に、企業がこれまでのようにITに対して投資しなくなったという市場環境の変化を挙げている。

同氏は「昨年はWAF(Web Application Firewall)市場が伸びた」としているが、これは「アプリケーションレイヤーにまで対応するようになったファイアウォールとIDS/IPS(侵入検知・防御システム)といった高度な機能を、安くかつスタンドアロンで導入できるようになったことが大きい」とし、結果的にこれが「UTM(統合脅威管理製品)が売れている理由」という見解を示した。

ITセキュリティとビジネスの融合を踏まえた"付加価値"の提供を

これまでは、企業が提示する要件に応じて"IT側がビジネスに合わせる"形でのソリューションの導入が行われるケースが多かったが、ユー氏は「今後は"ビジネス側がITに合わせる"形でのIT、とりわけセキュリティソリューションの導入が一層増えることになる」という。

十数年前までは、ITセキュリティ分野のトピックスが新聞の一面をにぎわすようなことはなかったが、今はITセキュリティの問題は"事件"として扱われるようになっている。同氏はこの流れを「世界が変わっている」ことの1つとして定義しているが、このような環境の変化に合わせて、企業も、そしてソリューションを提供するベンダーも「新しい現実」を受け止めて変わっていかなければならないと指摘している。

ベンダーサイドとしては、これまでのような売り切り型のビジネスモデルではなく、「顧客との継続的な付き合い」を実現できる"サービス"の重要性が一層高まってくるという。同氏はこれを"付加価値"の1つとして位置づけているが、ソリューションを売り込むべき顧客の窓口もIT部門ではなく、経営層にシフトする傾向にある。つまり、これまでのように「IT用語」が当たり前のように通用するといった状況ではなくなり、ビジネスに即した一般的な言葉で顧客の問題を解決するための提案を行わなければならなくなる。

これに伴って顧客の要望も「何(で解決してほしい)」から「どのように(解決してほしい)」に変化している。

同氏の説明は、上述の資料が示すように"専業ベンダー"がネットワークセキュリティ市場でその存在感を増している背景を示唆するものだ。

とりわけ日本市場において同氏は、「クラウドとマネージドサービスに対するニーズが急激に高まっている」としており、ベンダーとしてこの市場で成長を図るには、このような市場環境の変化に対応できる「強いパートナー企業と組むこと」の重要性を指摘した。

ユー氏はAPAC地域各国のネットワークセキュリティ市場動向に関する説明も行った

製品レベルでの差別化が難しくなった今、ユーザーとしてもこのような動向を踏まえながら、自社の問題解決の良き"相談役"となり得る「強いパートナー企業を持つ強いベンダー」を見極める力を持つ必要がありそうだ。