Vertuが2010年3月に日本で発表した携帯電話「シグネチャー吉祥」。人間国宝・室瀬和美氏による漆塗の蒔絵がデザインに盛り込まれている。価格は2,000万

フィンランドの携帯電話メーカーNokiaが、同社の英子会社である高級携帯ブランド「Vertu」の売却を模索しているという話題が盛り上がっている。米Strategy Analyticsの最新の調査報告で携帯電話販売台数の世界シェアトップの座を過去14年間で初めてSamsungに譲るなど苦戦が続くNokiaだが、業界フラッグシップの象徴であったVertu事業の売却観測が高まったことは、同社が大きな転換点に差し掛かったことを示している。

同件は英Financial Timesが4月29日(現地時間)に第一報を伝えたもの。財務アドバイザーとして契約している米Goldman Sachsが事業売却に関する交渉に介在し、独立系投資ファンドの英Permiraへの売却の可能性を示唆しているという。売却金額は約2億ユーロ(2億6500万ドル)を想定しており、売却に向けた詰めの段階にあるようだ。英Reutersによれば、Nokiaは昨年2011年12月にもVertu売却の可能性を示唆しており、社の方針として「コア以外の事業からの撤退」を打ち出している。

Vertuは「時計や宝飾品のような携帯」をコンセプトにスタートした事業で、1998年に会社設立、最初の製品は2002年にリリースされた。英国内の工場で職人による1つ1つ手作りをセールスポイントにしており、Signatureモデルを筆頭に、18金などの貴金属や宝石をあしらった数百万円から数千万円クラスの限定品を含む高級モデルを中心にラインナップし、最下位モデルでさえ100万円弱クラスと、コモディティ化の進む携帯電話業界では異質な存在だといえる。一方でトレンドの取り込みには縁遠く、OSは従来タイプのSymbianを採用し、サポートされる機能は長らく音声通話と簡単なテキスト送受信など基本機能にとどまるなど、変化の激しい業界でのキャッチアップが遅かったという問題もある。Vertu自体が携帯電話そのものの機能性よりも、「コンシェルジュ」と呼ばれるコールセンター経由での付加サービスに重点を置いていたことも理由の1つとみられる。

売却観測を伝える話題ではVertu事業そのものの採算性については言及されていないものの、Symbianや従来型の携帯電話販売から距離を置き、MicrosoftのWindows Phoneに資源を集中してスマートフォン中心の事業展開を目指すNokiaの方向性と、このVertuでの目指す方向性の違いが、同社を事業売却に向かわせた原因であるとForbesなどでは分析している。オールドスタイルのVertu事業に対して、スマートフォンは変化の激しい業界であり、両者が直接は相容れないというのが理由のようだ。