京都大学は、細胞がRNAを長さに応じて分類するメカニズムについて、hnRNP Cの四量体が「分子のものさし」となってRNAの長さを測り、RNAを長さに応じて仕分けすることを確認したと発表した。同成果は、同大ウイルス研究所の大野睦人 教授、マクロースキー亜紗子 同教務補佐員らの研究グループによるもので、3月29日付けの科学誌「Science」に公開された。

遺伝子が発現する過程で、DNAの情報はまずRNAにその情報が写し取られる(転写)。この転写を行うRNA合成酵素がRNAポリメラーゼであり、そのRNAの情報に基づいてタンパク質が合成される(翻訳)。このタンパク質の情報を担うRNAがメッセンジャーRNA(mRNA)と呼ばれる。

バクテリアでは転写と翻訳の場所は同じだが、ヒトのような真核生物、つまり核を持っている生物では、転写と翻訳が違う区画で行われるため、転写の場所である核から翻訳の場所である細胞質へとmRNAを輸送する必要がある。

タンパク質の情報をコードするmRNA以外にも、実はRNAには色々な種類があり、それらのRNAにはタンパク質の情報を担う以外の様々な機能を有するものが多々有り、これらのRNAは核の中でそれぞれ違うセットのタンパク質因子群と結合し、それぞれの細胞質へと輸送される。

これは、それらのタンパク質因子群がRNAの違いを区別しているということとなるが、これまで研究グループでは、複数の共通点を持つ似たもの同士であるmRNAとU snRNAという短いRNAの間がどのように区別されているのかを調査しており、その結果、RNAの長さが重要であることを発見していた。人工的に長くしたU snRNAはmRNAの因子群で、逆に短くしたmRNAはU snRNAの因子群で核外へ輸送されるようになった。また、その切り替わりの長さの境目は約200~300塩基長であったことを確認したが、この結果から細胞にはRNAの長さを測り、輸送経路を決定するメカニズムが存在することを導き出したが、のメカニズムについては謎のままであった。

mRNAとU snRNAの切り替わりの長さの境目は約200~300塩基長

今回、研究グループでは、様々な実験を行い、細胞がRNAを長さに応じて分類するメカニズムの解明に挑んだ。

細胞がRNAを長さに応じて分類するメカニズム

その結果、RNAポリメラーゼ(II型)による転写開始直後、染色体DNAから新生RNAの末端が現れ始めると、そこにキャップ構造という特殊な構造(図2の黄色い○)が付加され、キャップ構造結合因子CBCが結合することを発見した。

また、この時点では、このRNAが将来mRNAになるのかU snRNAになるのか細胞にはわからないが、転写がさらに進み、新生RNAの長さが200~300塩基長より長くなると、hnRNP CというRNA結合タンパク質の四量体が安定に結合できるようになり、そのような転写物はmRNA前駆体であると分類され、同時にU snRNA輸送因子であるPHAXのその転写物への結合が阻害される。逆に、RNAの長さが200~300塩基長より短いまま転写が終了した場合、 hnRNP Cの四量体が安定に結合できず、そのような転写物はU snRNA前駆体であると分類され、PHAXをはじめU snRNA輸送因子群がRNA上に集合するといったhnRNP Cの四量体が「分子のものさし」となってRNAの長さを測り、RNAを長さに応じて仕分けすることを確認したという。