京都大学(京大)は3月15日、霊長類の食べ物への指向性の原因を遺伝子レベルで検討した結果、味覚受容体の変異が原因である可能性を発見したと発表した。成果は、京大霊長類研究所の今井啓雄准教授、鈴木南美同大学院生、平井啓久教授らと、東京大学農学生命科学研究科「味覚サイエンス」講座、北京大学生物多様性研究拠点の研究者らによる国際共同研究グループによるもの。詳細な研究内容は、「Biology Letters」オンライン版に3月7日付けで掲載された。

ニホンザルは冬場に樹皮などを食べて生存している。ヒトがその行動を見てもひとつもおいしくなさそうに思うわけで、同じ霊長類の中でも食べ物の指向性はさまざまだ。

この原因を遺伝子レベルで検討した結果、味覚受容体の変異が原因である可能性が発見された。

種々の霊長類はほぼ同じ遺伝子セットを持っているが、その配列は微妙に異なる。今回の研究ではヒト、アフリカのチンパンジー、中国のラングール、そしてニホンザルを対象に、柳の樹皮などに含まれる苦味「サリシン」などを受容する苦味受容体「TAS2R16」に注目し、培養細胞でタンパク質の性質が調べられた。

その結果、まず、それぞれの霊長類で苦味耐性が異なることが示される結果が得られた形だ。特に、ニホンザルの苦味受容体は苦味耐性が高く、このことは行動実験でも確認されている。

また、タンパク質の変異体解析により、原因となる変異部位の特定にも成功。生態学的観察により、ニホンザルはほかの種とは異なり、柳の樹皮などを採食することが報告されているが、それが可能なのはこの苦味受容体の変異である可能性が高いと考えられている。

つまり、進化の過程で起こった遺伝子の変異が、採食行動にまで影響を与えているというわけだ。

さまざまな苦味物質に対する霊長類の苦味受容体(TAS2R16)の反応感受性をプロットしたレーダーチャートが、画像1だ。内側にあるほど感受性が高く(耐性が低い)、外側にあるほど感受性が低い(耐性が高い)。

それぞれの霊長類種の反応パターンは苦味物質ごとに異なる。特にニホンザルのみ、柳の木の皮に含まれるサリシン(salicin)などの苦味に耐性が高い。青酸化合物である「アミグダリン(amygdalin)」に対しては、どの種も感受性が高く、苦味を感じて忌避できるようになっている。

画像1。さまざまな苦味物質に対する霊長類の苦味受容体(TAS2R16)の反応感受性をプロットしたレーダーチャート

そして画像2は、受容体の86番目のアミノ酸変異による感受性の変化を示した棒グラフだ。ヒトやラングールの受容体をニホンザル型(86番目がT:スレオニン)にすると耐性が高くなり、ニホンザルをヒト型(E:グルタミン酸)にすると耐性が低くなるというわけだ。

画像2。受容体の86番目のアミノ酸変異による感受性の変化を示した棒グラフ