慶應義塾大学(慶応大)は3月15日、熊本大学および日本医科大学との共同研究により、現在のところ副作用がなく、また患者に負担をかけない治療法が確立されていない「特発性肺線維症(特発性間質性肺炎)」に対し、安全で簡便な新しい治療薬を開発したと発表した。患者が自宅で簡便に服用できる吸入薬であり、研究では高い治療効果が得られたことも併せて発表されている。

成果は、慶應義塾大学薬学部の水島徹教授らと熊本大学および日本医科大学の研究者との共同研究グループによるもの。詳細な研究内容は、米国科学誌「CHEST」電子版に掲載される予定だ。

特発性肺線維症は、肺が徐々に線維化し呼吸機能が低下するという病気で、これまではその治療法が確立されておらず、死亡率は肺がんよりも高かった。最近になって治療薬として、「ピルフェニドン」という薬が日本や欧州で承認されたが、副作用の問題などで充分な効果を発揮していない状況である(米国では承認されなかった)。

この病気の原因は肺の中で発生する活性酸素が肺組織を傷つけ、その修復が過剰になり線維化することだ。そこで古くから特効薬の可能性が期待されてきたのが、ヒトの体が元々持っている酵素で、活性酸素を消去する「スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)」だ。

元々持っている酵素を増やす形にすれば、副作用に関しても少ないであろうことが期待されていたわけだ。しかしSODは、組織に結合しにくく、かつ体内で不安定であるためその開発は成功しなかったのである。

そこで、SODにリン脂質を結合させ、組織への結合性や体内での安定性に関してSODの数10倍も高い性能を持たせたドラッグデリバリシステム(DDS)型の医薬品として、「PC-SOD」が開発された。

以前に研究グループが短期間ながらPC-SODを特発性肺線維症の患者さんに注射したところ、その有効性が確認されたのである。しかし問題は、特発性肺線維症を治療するにはPC-SODを長期間にわたって投与しなければならず、しかも毎日注射しなければならないという、患者に対する負担が大きかったことだ。そのため、もっと簡便な新しい投与法の開発が期待されていたのである。

そこで、研究グループではPC-SODをもっと患者が負担を感じずに済む方法で接種できるようにするため、吸入投与できるように大幅な改良を施したというわけだ。PC-SODの唯一にして最大の弱点を克服し、患者が自宅において吸入投与を行える形にしたのである。

吸入製剤型のPC-SODの効果をピルフェニドンと比較するため、マウス肺線維症モデルを用いて実験したところ、両薬剤とも肺の線維化を抑制できる点は同じだったが、大きく異なったのは肺の線維化に伴う呼吸機能の低下を改善させられたのは、PC-SOD吸入製剤のみだった点だ。また、肺内の活性酸素を減らす作用もPC-SOD吸入製剤のみで見られた効果である。なお、両薬剤を同時に投与すると、さらに高い治療効果が得られるという結果も得られた。

以上の結果から研究グループは、PC-SODの吸入製剤は、特発性肺線維症の治療薬としての有効性を示唆するとコメント。研究開発は次のステージに進んでおり、研究グループは今後は製薬企業と共同し、今年の5月から日本・韓国共同の国際臨床試験を開始する予定だ。すでに日本の医薬品医療機器総合機構には治験届を提出しており、近いうちに韓国でも提出する予定である。