産業技術総合研究所(産総研)は、産総研所内プロジェクト「MEMS技術を用いた携帯型放射線検出器の開発とその応用」において、小型で軽く、名札ケースやポケットに入れて持ち運びでき、長期間の連続使用が可能な放射線積算線量計を開発したことを発表した。同成果は計測フロンティア研究部門の鈴木良一 副研究部門長 兼 極微欠陥評価研究グループ 研究グループ長、および集積マイクロシステム研究センターの伊藤寿浩 副研究センター長 兼 ネットワークMEMS研究チーム 研究チーム長、先進製造プロセス研究部門の市川直樹 副研究部門長らの研究グループによるもの。

産総研では、2011年3月11日に発生した東日本大震災における東京電力福島第一原子力発電所の事故などで生じた放射性物質の飛散と、放射線被ばくの影響などを手軽に知ること目指し、産総研全体の研究ポテンシャルを結集した産総研所内プロジェクト「MEMS技術を用いた携帯型放射線検出器の開発とその応用」を立ち上げ、研究開発を行ってきた。

今回開発された線量計は、産総研のカーボンナノ構造体を用いた乾電池駆動X線源開発の小型化・省エネ化技術を応用したもので、小型かつ低消費電力で、一定時間ごとの線量を記録でき、高線量下ではLEDやブザーによる警告機能を持つ量産可能な放射線積算線量計となっている。

開発された線量計の本体部は児童や生徒でも手軽に持ち運べるようSDメモリカードよりも小さく、3Vのボタン電池1個で駆動することが可能(3Vのボタン電池1個で、直径20mmのボタン電池なら約2カ月、直径24.5mmのボタン電池なら半年以上の連続的な使用が可能)なものとなっている。

併せてこの本体部に電池やブザーを付けてケースに入れた放射線積算線量計(重量10~20g)を試作し、これらの放射線積算線量計を、名札ケースや衣服のポケットなどに入れて携帯することで、放射線線量を手軽に計測・記録することを可能とした。

SDメモリカードと小型放射線積算線量計の本体部分

開発された小型放射線積算線量計(左と中央)と比較のためのSDメモリカード(右)

今回試作された小型放射線積算線量計。1がバッジ型、2と3はストラップ穴付きで、1と2には直径20mm、3には直径24.5mmの3Vボタン電池をそれぞれ使用

名札ケースに入れた小型放射線積算線量計

積算線量計で記録したデータは、パソコンなどと電気的に非接触の光通信アダプタを介して読み取ることで、放射線の積算の被ばく量や、一定時間(1時間や1日)ごとの被ばく量の推移を知ることができる。

小型放射線積算線量計の測定記録のパソコン表示画面の例

測定・表示可能な被ばく量は、0.1μSv(γ線)から。半導体方式による放射線検出を採用しているが、同方式では衝撃などによるノイズを誤検出する場合があることから、衝撃センサを搭載することで誤検出の可能性の高い信号を除外する機能も搭載した。また、線量計内部では、線量率のレベルの監視も行っており、ある一定以上の線量率を検出した場合にはLEDの光やブザーの音により装着者に警告することも可能となっている。

開発された小型放射線積算線量計の主な仕様

なお、同プロジェクトでは、産総研全体の研究ポテンシャルを結集し、今回開発された線量計の技術を基に、複数の放射線検出器の開発が進められているという。主なものの1つとしては、消費電力が小さい無線チップを組み込んだ無線機能付き小型放射線積算線量計で、これにより、アダプタを介さずに直接スマートフォン上で日々の線量の把握が可能になるほか、児童や生徒などが携帯している線量計の情報を、保護者がスマートフォンで適宜、確認することが期待できるとしている。また、無線化により、較正に掛かる作業コストの低減による、大量の積算線量計の効率的な全量較正の実現が可能となり、将来的には全量較正された均一な感度特性を持つ無線機能付き小型積算線量計による、信頼性の高い個人被ばく量の把握が可能になるという。

もう1つの例としては、GPS機能付き携帯型線量率計があるという。すでに文部科学省による放射線分布マップなどで、おおよその放射線量の空間分布は評価されているが、自宅周辺などの局所的な放射線の線量率分布はまだ十分に得られていないのが現状であり、こうしたGPS機能付き携帯型線量率計を活用することで、ホット・スポットを含む道路や毎などにおける詳細な線量率マップを実現することで、個々人が無用な被ばくを避ける行動をとったり、自治体における効果的な除染計画の策定など、人や地域単位での総合的な被ばく量の低減に向けた取り組みが期待できるようになるとしており、今後も使い勝手の向上やさらなる省電力化、計測線量値の信頼性向上などを進めていくとともに、安価に入手できるようにするための量産化技術の確立を図ることで、可能な限りの早期実用化を目指すとしている。