ワークステーションの再定義

GPUの進化は、ワークステーションに大きな変革をもたらそうとしている。ファン氏は「GPUの次の進化は、そのグラフィックス処理性能と並列演算性能の両方を活用し、シミュレーションとビジュアル処理の両立を図ることだ」として、まずはワークステーションの世界に、GPUの新しい可能性をもたらす意向を示す。

ハードウェア設計やデザインなどに利用されてきたワークステーショングラフィックスは、1980年代半ばにSGI(Silicon Graphics Inc.)のアイリス2000がジオメトリエンジンを搭載したことで、リアルタイムでワイヤフレームベースの設計が容易になった。さらに、2002年にはGPUがプログラマブルシェーダーをサポートするようになったことで、光の反射などを反映したレンダリングを可能にし、さらにGPUを使った汎用並列演算性能の向上でワークステーションでも、写実的なレイトレーシング処理が可能になった。

ワークステーションによるデザイン機能の進化。GPUの性能が向上したことで、いまやリアルタイムで写実的なレイトレーシング処理を行なうことも可能になった

NVIDIAは、このトレンドをさらに加速すべく、ワークステーションの並列演算性能を引き上げることで、これまでスーパーコンピュータ頼みだったシミュレーションと、リアルタイムレイトレーシング処理を両立できる環境を提供しようというものだ。同社が「Maximus Technology」と呼ぶ、新しいワークステーション環境は、グラフィックス処理用のQuadroに加えて、GPUコンピューティング用にTeslaを搭載し、GPUコンピューティングの演算負荷が大きなときはQuadroにも処理を分担させられるようにする技術だ。

ファン氏のキーノートでは、同技術を採用したLenovoのワークステーションPC「ThinkStation D20」を用いて、3D CADソフトのAutodesk 3D Inventtor Professional 2012で新型バイクのデザインを行ないながら、3ds Max 2012でリアルタイムにレイトレーシング処理ができるばかりか、設計の変更なども写実的なCGで確認できるようになるとアピール。さらに、映画制作の現場でも、これまで外部の大規模サーバーに委託して1日がかりで数フレームのレンダリング処理を行なってきたCGアクションの制作も、GPUコンピューティングを活かせば、CG制作現場でリアルタイムに効果を確認できるようになることを披露した。

ファン氏は「GPU性能の向上によりワークステーションのハードウェア設計能力は大幅に向上した。しかしながら、より精細なグラフィックス表現ができるようになったトレードオフでリアルタイム性が失われ、近年は最終レンダリングなどの待ち時間も多い、いわば"ウェイト・ステーション"(Wait Station)になっていた。しかし、Maximus Technologyにより、ウェイト・ステーションは再びワークステーションとしての地位を取り戻すことができるだろう」という見方を示した。

TeslaとQuadroの組み合わせによるMaximusテクノロジのデモ。ハードウェアやデザインの変更をリアルタイムでレイトレーシングに反映させることが可能になり、設計プロセスの短縮などを図ることができると言う

Maximusテクノロジを使った3Ds MaxによるCGレンダリングとシミュレーションのデモ。これまで、CG合成のシミュレーションは外部のデータセンターを活用するか、長い時間をかけてオフラインレンダリングできなかったが、Maximusテクノロジにより2つのGPUの処理能力を、シミュレーションやレンダリングのどちらか負荷が高いほうに割り当てることで、ほぼリアルタイムでシミュレーション結果をレンダリングできるようになると言う

Maximus Technologyにより、近年のワークステーションで生じがちだったシミュレーションの演算処理やレンダリング処理のための待ち時間を解消し、本来あるべきワークステーションの姿を取り戻せるようになるというのが、ファン氏のアピールだ

Maximus Technologyを採用したLenovoのThinkStation