サードウェーブは10月17日、同社の「安全環境事業部 秋葉原トレーニングセンター」のオープン記念とする講演会を開催、福島県南相馬市における除染活動がどういったものであるのか、チェルノブイリ事故の後、ウクライナが放射能対策のためにどういった社会システムを構築したのかに関する講演を行った。その中から、今回は実際に、南相馬市立総合病院で活動する坪倉正治氏の講演内容から、除染の現状と課題点などをレポートしたい。

南相馬市立総合病院で医師として活動する傍ら除染活動なども行っている坪倉正治氏

同氏は東京大学医科学研究所 先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門 研究員で血液内科として骨髄移植などを長年行ってきており、そこで得た放射線に関する知識を生かすために、現在、同病院の非常勤医として活躍している。

同病院は、福島第一原子力発電所(福島第一)から北に23kmのところに位置する日本で最も福島第一に近い総合病院。230床の病床を有しており、同氏はそこで内部被ばく系の検査に伴う仕事と、南相馬市の除染活動、放射線の影響などの住民への説明などを行っている。

南相馬市はもともと市町村合併により誕生した市で、福島第一の北側に位置することもあり、放射性物質の飛散の影響を受けた結果となったが、海側、山川、都市部、それを南部と北部で分けた形で、地域地域によって放射線量が異なるという複雑な状況となっている。

福島県と南相馬市の概要

除染だが、土がむき出しの地面の場合、だいたい5cmほど剥ぐ作業が行われるが、「単純に土を剥げば良いというのは、理論的な平坦な場所での話。また、壁は高圧洗浄でかなり除染できるが、その流れ落ちた水がどうなるのかは解決のめどは立っていないし、屋根を洗浄しようと思っても、その種類や形状、素材によって対処の仕方がまったく異なるほか、屋根に上るということで、危険が伴い、実際に落下して重篤な状態に陥ってしまった人も居る」(同)との同市の除染の様子を語る。しかし、一日でも少しでも良いから放射線量を下げたいと思うのが当然であろうし、国や自治体、ましてや東京電力がそうしたことを一般市民に対して行える状況ではない現在、自分でやらないとという気持ちになることは十分理解できる。また、同氏は「自分でやって、そうした怪我や場合によっては死にそうな状態にまで陥ってしまう。誰がいつ、責任を持つのかどうか、まで含めて解決しないといけない」とそういった背景を指摘する。

ちなみに、40-50cm程度の高さの雑草で覆われている雑草を刈ると、その場の線量は上昇する。これは、放射性物質の大半が草木に着くのではなく土に着いているためで、だからこそ、雑草を刈り取るときは一緒に下の土も取り除かないといけない。「草木についているセシウムをとるために刈り取るのではなく、その下にある土を除去するために刈り取るというイメージ」とのことで、除染の基本は、「土を剥ぐ」、「水で洗う」、「草を抜く」の3つの行為で賄え、「近代機器はまったく役に立っていない」とのこと。

放射性物質は、さまざまな場所に沈着しており、風雨が生じれば、ほこりやチリとして浮遊して、それがあちこちに再び運ばれることとなる

こうした除染を行う前段階として重要なのが計測ポイントである。「計測回数とポイントをできるだけ増やさないと、解決できるものも解決できない。例えば部屋の中を除染しようと思っても、部屋のどこで、どれくらい測定するのかが問題になってくる。高さ、位置、どの程度の頻度で行えばよいのか、かなり試行錯誤がまだ続いている。狭い部屋であれば中央部での測定で良いが、ある程度の広さになれば2mごとにメッシュ状に分けて測定するほか、高さも10cm、50cm、1mなどに分けて測定をしていく必要がある」(同)というのも、「ガンマ線は100m飛ぶと言われている。そうなると雨どいなどから放射性物質を取り除いて、周囲5mを測定して減衰しているかどうかを調べる。家の中は本来安心できる場所。0.1μSV/hでも下げる努力をすることで、24時間、365日換算で相当被ばく量も変わってくる」(同)と、どこからどれだけの放射線量が発しているのかを理解するためには、そうした細かな測定が重要だという。

同氏は「除染を行う時に最も重要なことはデータがぶれずに測定できる線量計のノウハウを誰でもが覚えることが重要」とするが、「土を掘れば掘るほど線量は下がる。しかし、砂場は下の方まで浸透するので多く掘らなければ線量は下がりにくい。また、逆に粘土質であれば表面程度でもかなり除染できる。しかし、問題なのはそうした土をどこに持っていくか。また、掘った後の表面は凹凸が生じるが、台風も含めて風雨が生じれば、山などから放射性物質が飛来し、また線量が上昇し、再計測をしなくてはいけなくなる」と、1度だけ除染をすれば終わりではないことを指摘する。

土の状況でどれだけ剥ぐのかも変わってくる。そうしたことを判断するためにも除染前に、どこがどの程度の放射線量なのかを細かく調べる必要がある

ちなみに、同氏が除染に携わった保育園では800ポイントを計測。建物の4方の壁ごとに、それぞれ実施する除染方法を決めて行ったほか、園庭については地点地点での線量計測を行いながら土をひたすら剥いで行ったという。ただし、周辺の土地は別の地権者が居り、そうした人たちへの説得も必要なほか、河川や川辺は県の管轄で、担当者に連絡をしても、返答が遅かったりと、非常に問題が山積した状態で行っていかないといけないという事態になっているという。また、除染した物質をどうするかも問題で、この保育園の場合、近場の駐車場を借りて、周辺住民を説得して、理解をしてもらったうえで、埋設作業を行ったという。

これは一般家屋における除染の前後での線量の変化。外に近い場所ではかなり減っているが、家屋中央付近ではほとんど減少が見られなかった

「この保育園では周辺はともかく、室内での被ばく量をとにかく減らそうということを目的に、細かく測定を行っていった。除染作業そのものも重要だが、この測定が個人レベルでしっかりとできることがもっと重要になる」とのことだが、それは線量計を持って、大気中の放射線量を測定するだけである。人体への影響不安は震災直後から指摘されているが、「人体への影響をチェックできるとしても食物や水の汚染状況を調べることが基本というか、それ以上のことはなかなかできない。逆に言えば、食物などをしっかりと検査して、安全かどうかを直に図ることが重要。測定の知識は今後の健康維持のためには必要不可欠となるだろう」としており、食品スーパーなどでの消費者の目の前での測定などは安心感などの意味も含めて非常に重要になってくるとした。

Whole body counterにて体内の放射能の測定は可能だが、最大のポイントは体内にいかに入らないようにするか。今回のセミナーもその視点で開かれたもので、同トレーニングセンターは食品事業者などが放射線測定機器に対する知識を持つための場所としての意味合いも持たせてあり、同セミナーで講演も行ったウクライナAtom Komplex Pryladの食品向け測定器などが置かれている。