新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、豊田合成、アドバンスト・ソフトマテリアルズ(ASM)の3社は、低電圧で駆動する高分子アクチュエータの一種である「誘電アクチュエータ」の開発に成功したことを共同で発表した。合わせて、浜市総合リハビリテーションセンターのアドバイスをもとにその誘電アクチュエータを組み込んだ義手のプロトタイプも開発し、駆動にも成功したことも発表された次第だ(画像1)。

画像1。誘電アクチュエータを搭載した義手のプロトタイプ

代表的なアクチュエータには電磁モータや圧電素子があるが、電磁モータは駆動源の重量に対する出力比が小さく、軽量化に限界があると共に、磁石に使われる希少金属確保の難しさや有害物質の使用制限などの問題を持つ。一方の圧電素子については変位量が小さいため、小型モータの代替えとして使用するには難しいという弱点がある。

こうした既存アクチュエータの課題を解決する、まったく新しい原理基づく高性能アクチュエータの開発が社会的にも産業的に求められているのが現状だ。高分子を用いた誘電アクチュエータは次代のアクチュエータとして研究されているものの1つで、軽量・高変位・高エネルギー効率を実現する可能性が最も高いと考えられてきた。しかし、駆動電圧の高さがネックとなり、これまで実用化を妨げていたのである。

豊田合成とASMは、NEDOの「ナノテク・先端部材実用化研究開発」の一環として、新規高分子材料の「スライドリング・マテリアル」(SRM)樹脂を用いたアクチュエータの開発に取り組み中だ。

SRMとは、2000年に東京大学の伊藤耕三教授の発明した架橋点が自由に動く新規高分子材料のことで、柔軟性や伸縮性に優れ、へたりがほとんどないという革新的なエラストマー材料である。

今回2社は、そのSRM樹脂をフィルム状に形成し、直径12mm、長さ60mmのロール状に巻き取った円筒形で、電圧を印加することで駆動する仕組みを持つ誘電アクチュエータを開発した(画像2)。ASMが開発したSRM樹脂と豊田合成の誘電アクチュエータ技術を組み合わせることで、従来の直動型モータよりも軽量で静粛性が高く、高エネルギー効率の誘電アクチュエータが実現したという次第だ。駆動電圧を従来技術に比べて大幅に低減できたのが特徴である。

画像2。SRMの特徴と、SRM樹脂を用いた誘電アクチュエータ

その理由は、SRMが柔らかく「ヒステリシスロス」(ゴムに力を急激に加えたり除いたりすると、変形が遅れて起こる現象。ロスが大きいとアクチュエータのレスポンス性が損なわれる)の極めて小さいJ字型の応力伸長特性を示し、高い誘電率を持つことから低電圧でも大きく変形するためだ。

また、既存の電磁モータを搭載した筋電義手の場合、重量があることが課題だったが、今回の誘電アクチュエータを使用した義手の場合は、それを解決。しかも、使用時に発生する動作音がより静粛かし、滑らかにものをつかむことができるなど、より人に優しい装具となったとしている。

今後は、さらなる低電圧駆動かと出力向上を目指すと共に、義手適用への優位性について検討を続けていくとしている。具体的には、2012年度末までに、材料、構造、製造プロセスの最適化を行い、誘電アクチュエータの特性が生かせる義手などの福祉・健康機器向け、製造用ロボット向け、サービス分野向けなどの幅広い分野で使われる部材となるよう、出力10N/変位5mmの実現を目指していくとした。

なお、10月22日(土)から23日(日)に東京ファッションタウンビルで開催される第27回日本義肢装具学会において、今回のプロトタイプ義手の展示と実演が行われる予定だ。