宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月22日、JAXAインターナショナルトップヤングフェローのPoshak Gandhi研究員を中心とする研究チームが、米国航空宇宙局(NASA)の広域赤外線探査衛星「Wide-field Infrared Survey Explorer(WISE)」が取得したデータを用いて、ブラックホール周辺が突然明るく輝きだす珍しい現象をとらえたことを発表した。今回の成果は、ブラックホールとジェットに関する新たな発見をもたらしたとのことで、その詳細は2011年10月10日発行の天文学と天体物理学を扱う米国の専門誌「The Astrophysical Journal」にて掲載される予定。

ブラックホールそのものの観測は難しく、ブラックホールに物質を供給する「降着円盤」やジェットそのものについては、そこから放出されるX線、γ線、電波などの観測を通じてブラックホールの謎の解明に向けた取り組みが世界各所で進められている。今回の成果は、ブラックホールから放出されるジェットと降着円盤をつなぐ付け根の最も明るい部分の観測を、WISEを用いた赤外線観測で実現したというもの。

さいだん座のブラックホール「GX339-4」は我々の住む銀河系の中心近く、地球からは2万光年以上離れたところにあり、太陽より6倍以上重いと考えられている。ほかのブラックホール同様、きわめて高い密度で物質が集まっており、その強い重力のため、光ですら逃げ出すことができないのは変わらないが、この天体の場合、星が超新星爆発を起こしてできたブラックホールの周りを伴星が回っており、そこから供給された物質の大部分はブラックホールへと落ち込むが、残りは光速に近い速さでジェットとして吹き出していると考えられている。

ブラックホールGX 339-4連星系とそこから吹き出すジェットの想像図((C)NASA)

「太陽が突然でたらめに爆発を繰り返し、ほんの数時間のあいだ3倍も明るくなり、また元に戻ったと考えてみてください。このジェットで見られたのは、このような激しい変化だったのです」と、今回の研究結果の筆頭著者であるGandhi研究員は、WISEによって観測された増光現象の規模を説明している。実際には、ブラックホール周辺の増光現象をとらえるためには正しい場所を正しいタイミングで観測する必要があり、WISEの赤外線画像を1年の間、11秒ごとに1枚ずつ撮り続け、全天をカバーすることで、ようやく、この現象を観測することに成功したという。

得られたデータを解析した結果、ジェットの活動の変動は大きく不規則的で、11秒から数時間までさまざまだったことが判明した。赤外線の色が大きく変化していることが確認され、これはジェットの根元付近のサイズが変化していることを意味するという。ジェットの根元の半径はおよそ2万4000kmだが、最大で10倍程度以上の変化が確認されたという。

ブラックホールGX339-4からの赤外線の強い増光と減光を示すWISEの動画。この動画は1日の期間をカバーしており、時間を短縮して表示したものとなっている(赤外線は目に見える光の15倍程度波長が長い)(出所:JAXA Webサイト)

研究チームでは、このデータを活用し、ブラックホールの磁場を精度よく測定する技術を考案しており、このような強い磁場こそが物質の流れを加速し絞り込んで細いジェットにするのに必要であることが確認されたと説明している。