黎明期には単独で使われていたデスクトップPCが、ネットを通じて通信するようになり、インターネットの常時接続が当たり前になると、無線技術が発達してモバイルPCが成長し始めた。Webサービスの隆盛とともに、クラウドサービスへのシフトが始まり、今やクラウドをデータのハブにしてPCやタブレット、スマートフォンなど複数のクライアントを使いこなすユーザーが珍しくない。Intel Developer Forum(IDF) 2011の初日、Intel社長兼CEOのPaul Otellini氏は「コンピューティングは常に進化する状態にある」と述べ、その進化をけん引する同社の役割について語った。

Intel社長兼CEOのPaul Otellini氏

コンピューティングの進化は、常に半導体需要を喚起してきた。例えばブロードバンドとモバイルPCが成長した2000年から2005年の間に、世界で使われるトランジスタ数は1クィンティリオン(100京)未満から5クィンティリオンに急増した。2005年以降、今度はネット接続機器が爆発的に増加し、データセンターが次々に建造されて、2010年には80クィンティリオンに達した。今日、YouTubeには1分ごとに48時間分の動画がアップロードされ、Twitterでは毎日2億ツイートがつぶやかれる。タブレットやスマートフォンの登場でネット接続機器は40億台を超え、それらは年間9000億GBのデータを生成する。コンピューティングの進化は今後もとどまることなく、データの管理・分析・保管などの需要により、2015年には世界で使われるトランジスタ数が1000クィンティリオンを超えるとIntelは予測する。2005年から2015年の10年間で200倍に増えることになる。

ブロードバンドが普及した00年代前半に、世界で使われるトランジスタ数は5クィンティリオンに

00年代後半はデータセンターの拡大とネット接続機器が拡大を後押し

これはIntelにとって大きなチャンスであると同時に、ムーアの法則の継続という難題に直面することを意味する。3Dトランジスタ技術によって22nmプロセスは形になろうとしている。では、その先はどうなるのか。Tick-Tockモデルに従えば、2013年に14nmプロセスへの移行を迎える。Otellini氏は具体的な技術に言及しなかったものの「すでにわれわれは14nmテクノロジを視野に入れている。実際、開発は順調に立ち上がろうとしており、その技術をサポートするための製造施設の準備を進めている」と述べた。

テクノロジは空白だが、すでに14nmプロセスを視野に

基調講演の後半はコンピューティングの継続進化に対するIntelの今後の取り組みを、「Engaging」「Consistent」「Protected」の3点から説明した。

Engagingとは、ユーザーを引きつけるコンピューティング体験だ。例えば音楽や動画をいつでもどこでも楽しめることで、PCやスマートデバイスを使ったコンピューティング体験が豊かなものになる。過去においては、マルチコア化や第2世代Coreのグラフィックス統合など、より多くの機能を効率的に提供するテクノロジがコンピューティング体験の向上に寄与してきた。今Intelが提唱している新世代の薄型軽量ノート"Ultrabook"は、過去数年のEngagingに対する同社の取り組みの集大成と言える。いつでもどこでも満足できるコンピューティング体験をセキュアに提供する。さらにOtellini氏は「コンピューティングの新たな条件になろうとしている"手頃な価格"も、同じぐらいに重視されるだろう」と付け加えた。

より多くの機能を効率的に提供することで、コンピューティング体験を向上

「Ultrabookは満足度の高い包括的なコンピューティング体験を提供する」とOtellini氏

効率性という点では、現行のSandy Bridgeの次々世代にあたるHaswellは、ネット接続を維持したスタンドバイ状態の電力消費が第2世代Coreよりも30%削減できるように設計されている。しかし、それだけではない。プロセッサだけではなく、電力管理フレームワークの設計がシステムレベルに及んでおり、プラットフォームのアイドル時の電力消費を1/20に改善することも可能であるという。

半導体設計のみでは、Haswell搭載機のアイドル時の電力消費ターゲットは第2世代Coreの30%減

システムレベルでの取り組みによって劇的に効率性が向上、一日中の使用や、10日間以上のConnected Standbyが可能に

Haswellの効率性に関連して、Intel Labsが研究している「Near Threshold Voltage Processor」の実験デモが披露された。小さなソーラーパネル(システム写真の中央上)からの給電のみで、Windows PC上で簡単なアニメーションが動作。ソーラーパネルへの光を手で遮ったらシステムがフリーズした

2番目のConsistentは、一貫性、相互運用性のあるシームレスなコンピューティング体験だ。異なる種類の機器の間でデータやサービスを共有できるようにする取り組み「Compute Continuum」が取り上げられ、Pair & ShareテクノロジやTeleport Extenderのデモが行われた。

スマートフォンやタブレットをPCなどにペアリングして写真や動画を共有するPair & Shareテクノロジ

Intel Teleport Extender。スマートフォンやタブレットに届くSMSメッセージをPCに表示でき、PCからのやり取りも可能

3番目のProtectedはセキュリティを根底にしたデザインである。McAfeeのレポートによると、マルウエアはビジネスの生産性に年間1超ドルの損害を与えている。近年Intelは、こうした脅威への対策に力を注いでおり、基調講演ではIntelとMcAfeeの戦略パートナーシップの初の成果となるセキュリティプラットフォーム「DeepSAFE」が発表された。ハードウエアとソフトウエアの組み合わせにより、OSよりも深い部分でシステム全体をモニタリングし、従来のソフトウエアベースのセキュリティ機能では検出が難しかった未知のマルウエアやゼロデー攻撃にも対処する。

McAfeeのEndpoint Security担当ゼネラルマネージャーCandace Worley氏

ハードウエア+ソフトウエアでOSよりも下の層からシステムを監視するDeepSAFE

最後に、既報のようにAndroidスマートフォンに関するIntelとGoogleの開発提携が発表された。Androidの将来のバージョンからIntelアーキテクチャが正式にサポートされる。

「過去数年、Intelはスマートフォンのシリコンとシステムデザイン、そしてIntelアーキテクチャの強みを新たなデバイスに適用する最善の方法について、多くのことを学んできた。われわれの目標達成は簡単ではないが、目標は非常にシンプルだ。スマートフォンのエコシステムにおいて、Intelアーキテクチャを選ばれるプラットフォームにすることである。この目標に近づく大きな前進を、今日報告できるのをうれしく思っている」とOtellini氏。Atomプロセッサを搭載したスマートフォンは2012年前半に登場する予定だ。

スマートフォン・携帯機器向けAtomプロセッサ「Medfield」(開発コード名)を搭載したAndroidスマートフォンのリファレンスデザインを見せるGoogleのAndy Rubin氏

Medfieldを搭載した10インチのAndroidタブレット