決死隊をなくすためにロボット配備義務化を提言

IEEEフェロー、IEEE Robotics and Automation Society次期副会長の田所諭氏(東北大学大学院 情報科学研究科 教授/国際レスキューシステム研究機構 会長)

変わって登壇した田所氏は、福島第一原発の事故でのロボット活用の話を中心に述べたが、そこについては、同氏が国際レスキューシステム研究機構(IRS)会長としての立場も交えて講演を行った5月2日開催の公開シンポジウム「震災復興にむけて ロボット技術のいま」のレポートに記載されていることとほとんど変わりがないので、被る部分はそちらをお読みいただくとして、ここでは、そうした取り組みから見えてきたことをお伝えできればと思う。

原発へのロボットの投入の遅れについて田所氏は、「メディアから聞かれるのがなぜ、日本のロボットが登場しなのかということだが、私としては搭乗したらおかしいという気持ち。原発事故に対しても対応する組織がない。自衛隊も消防も原発事故は門外漢。ロボットが配備されているわけがない。米国では商品化されているのにも関わらずだ。日本も原発対応研究はされていたが、打ち切られた。災害対策は細々と研究されてきたが、あくまで災害であり原発事故に対応できるわけがなく、それが対応して、商品になって、配備されるという道筋があるわけではないのに、そこでいきなり登場したら逆におかしい」と、その背景を説明。現在では国内外問わずに多くのロボットが現場投入されるロボット技術の総力戦の状況となっているが、「実際にロボットが義務的に配備されていないため、仕方ないので、どこまで通用するかを試しつつ、投入する必要がある。本当にロボットがこうした災害時に役に立つようになるためには、研究開発で終わらせるのではなく、商品化し、配備する基盤を整備する必要がある。ともかく日本ではロボットを重点的に使おうという組織がない」と、なんらかの形でロボットを活用し、人間が決死隊を組んで、まさに死地に飛び込むといった行為をやらないで済む枠組み作りが必要であるともしている。

「災害現場でのロボットの活用はさまざまで、一般にはいかつい姿のロボットが原発に入っていくとかのイメージだが、PAROなどは避難所の住民向けに何台も提供されているほか、ASIMOなども被災地に行って、住民とコミュニケ-ションを取るなどの取り組みを進めている」とし、「とにかく役に立たないと意味がない。人型でも良いが、その該当する作業をもっとも効率よくできる姿を選べるのであれば、そちらの方がよほど良い。逆に避難した人などの心理的不安などを解消するには人型などの方が効果がある」と、例えロボットであっても、適材適所が存在することを強調する。

ロボットを使うことにも正の理由と負の理由がある。また、その作業の最適な形状などをとることが重要となってくる

すでにQuinceなども含めた多数のロボットが原発に投入されているが、必ずしも投入したから問題が解決というわけではない。「上手く行っていないことも多々ある。東京電力が用意した図面では問題ない幅なのに、現場に行ってみると、実際はその幅が狭く、回転ができないなどの問題もあった。また、有線での投入のみで、かつオペレータも東電社員のそれなりの年齢の人ばかりなので、アクロバテックな操作ができず、瓦礫を前に後退ということもあった。無線タイプのQuinceを使えば、そうした心配もいらないのにも関わらず、何故か使おうとしない」と、東電側の思惑やオペレータの熟練度などの人的要因などもあり、思ったとおりの作業ができないこともあるという。

Quinceや他の原発投入ロボットの概要と原発の対策概要

福島第一原発におけるQuinceの投入風景。これらの動画は東電のWebサイトで公開されているので、誰でも閲覧は可能だ

こうした経験を踏まえ田所氏が得た結論は、「想定外のことが起きた時に、それがこれほどの状態になるまで対応ができない備えしかしていなかったのだと思う。想定を超えた時にどうするか、それに備えることが重要で、すべてに備えることは難しいが、今回のようなことになっては話にならない。今回の事象は起きることそのものを考えていたのかが疑問。事実は事実であり、自然界の摂理に対し、誰かが確証もなしに起きないと言っても、そう言われるとそんな気がしてきたり、風評被害と言われると、安全のような気がするが、実際に被害があるのは確かで、そこを間違えてはいけない。自然の摂理が決めたことを人間が捻じ曲げることはできない。法律違反だの何だのというが、法律は自然の摂理を反映しているわけではない、それに従うなとはいえないが、非常事態にそんなことを議論することがナンセンス。そんな状況だからこそ、動かなければより酷い結果にしかならない」との想いである。

「ロボットは確実に必要だが、配備されていない。配備に向けての何らかの担保が必要。それは政権が変わった程度で反故にされるくらいのものではいけない。ブレークスルーを図るには、配備をしっかりできる環境を法的に整え、組織を整備する必要がある」と、改めてロボットを災害時に活用できる体制を国家の方針として定める必要を強調するほか、「仮に原子力をやめるにしても、廃炉までには20年、30年と長い時間がかかる。それまで、なにもしないというわけではなく、さまざまな技術を次々とつぎ込まないと、今回と同じことが起こる可能性も出てくる。原発を建てるのは別として、安全にするためのロボットも開発していく必要があり、そうした環境下でIEEEもそれなりの役割を果たせると思っている」と、IEEE全体で、そうした非常事態に対応していけるロボット技術などの開発をする用意があるとするが、配備を含めて実際に使えるまでには、プロトタイプの開発からブラッシュアップをしていく普通の家電などと同じステップを踏む必要があり、それには少なくとも2年は欲しいとの見方を示している。

災害対策ロボットを配備していくために必要なことは、必要になるときが来る可能性があるという考えのもと、組織的にその活用に向けた取り組みを継続的に行っていくことが重要で、そのためにはビジネスとして育つ下地を作ることが課題になってくるという