ワコムは、イラストレーターや漫画家向けのセミナー「Wacom Creative Seminar for Illustration」を、東京・秋葉原にて開催した。クリエイティブセミナー「Wacom Creative Seminar」の第3弾となる本セミナーでは、数多くの児童書イラストを手がけるイラストレーター加藤アカツキ氏や、映画『星を追う子ども』の美術監督を務めた丹治匠氏らが登場。第一線で活躍するプロのクリエイターによる貴重なセミナー、トークセッションとなった。

未来のクリエイターを応援する情報サイト「ぷらちな」の協力のもと開催された、イラストレーターや漫画家向けに内容を特化されたセミナー。会場には、多くのクリエイターが来場し賑わいをみせた

イラストレーターの加藤アカツキ氏。液晶ペンタブレット「Cintiq」シリーズを使用。ソフトは「Photoshop」や「IllustStudio」などがメインで、作業場では左手用にBELKINの「NostromoSpeedPad」も利用する

完成に至るまでのプロセスと、テクニックを披露

冒頭登場した加藤アカツキ氏は、「心霊探偵八雲シリーズ」(著:神永学/文芸社)、「ぼくらシリーズ」(著:宗田理/ポプラ社)、「角川つばさ文庫」など児童書のイラストも多く手がけるイラストレーター。今回のセミナーでは、「IllustStudio」にてご本人が実際に作成された作品の下書きから、ペン入れ、着色、完成に至るまでのプロセスを手順にしたがって説明しながら、様々なデジタルイラストレーションのテクニックが披露された。

簡単なアタリを付けるためラフに始まり、確認作業を行える程度の下書き、さらにペン入れといった作業が、瞬く間に行われていった。作画時には、タブレット用ペンにフェルト芯を使用する

また「IllustStudio」の定規・図形ツールの機能を活用した、人工物や背景の正確な表現方法についても解説が行われた。特に、パースを設定可能な定規は、遠近感のある完成度の高い背景などを簡単に描くことができ、実際の制作作業においても利用頻度が高い。さらに、「放射線定規」や「平行線定規」も活用しており、ハンドドローイングでは難しい、長いストロークが必要な動きのあるイラストの制作に最適とのことであった。

一瞬で正確なパースに沿った背景が作画されていく。さらに、ペン入れ後の着色についても、ラフと詳細なペイント作業の2段階を経てイラストの完成形へと丁寧かつ迅速に近づけていく。最終的な仕上げとなる補正作業については、レスポンスの良さなどの理由からPhotoshopにて行われる

背景画を作り出すためのフローから、愛用のブラシまでを公開

続いて後半のトークセッションには、新海誠監督の最新作『星を追う子ども』の美術監督を務めた丹治匠氏が、新海作品のプロデュースを手がけるコミックス・ウェーブ・フィルム取締役の伊藤耕一郎氏と共に登壇。作品中で使用された背景画などを素材としながら、独特の質感や雰囲気を持つ繊細な背景画を作り出すためのテクニックや制作フロー、ワコムのペンタブレットの活用方法などを公開した。

丹治 匠氏(中央)と伊藤耕一郎氏(右)。加藤アカツキ氏(左)のナビゲートによりトークセッションは進行された。丹治氏はペンタブレット「Intuos4」(ラージモデル)、および「Photoshop」を制作に使用している

丹治氏は、多くの映画、テレビドラマなどの画コンテやイメージボード制作などに関わっており、アニメーションの美術監督としては新海作品が主になるとのこと。作品ごとに、背景画を含む美術全般に対するコンセプトやポリシーが異なるため、作品に最適な描画や表現の方法を模索するが、特に新海監督の作品については、制作を進行しながら美術設定などがさらに詰められていくことも多いそうだ。

通常の作画には、Photoshopが使用されており、制作過程で効率的に高品位な作画を行うため、カスタマイズされたオリジナルブラシも数多く開発されたという。さらにトークセッションの中盤には、実際の作業で活躍した数種類のブラシも活用方法など含め紹介が行われ会場の注目を集めていた。なお、最新作に参加した美術チームは、10名程度のコアメンバーを中心に構成されており、その他の外注スタッフなどを含めて制作が行われたとのことであった。

『星を追う子ども』の制作時にも活躍したオリジナルブラシが紹介された。手書きのようなアナログな質感も再現可能となっており、今回は草原や森などの表現に多用された。なお、新海監督が愛用しているオリジナルのブラシ(通称:新海ブラシ)なども存在するらしい

新海作品ではお馴染みの美しい雲や色合いを持つ背景画の制作実演も実施された。簡単なスケッチから、様々なグラデーションを持つレイヤーを重ねることで、鮮やかな夕景や重厚感のある森林などを素早く作り出すテクニックはプロクリエイターならでは、といえそうだ