ワコムが開催したプロカメラマンによるフォトレタッチセミナー「Wacom Creative Seminar」では、魚住誠一氏、吉田繁氏のセミナーに続き、諏訪光二氏のセミナー「視線を誘導する覆い焼き、焼き込み」が行われた。セミナーで諏訪氏は、レタッチによって写真を作品に仕上げるまでの行程やセオリーを紹介した。
諏訪氏は自然・風景の写真を撮りながら、講師としても活躍するカメラマン。ペンタブレットを使ったレタッチは20年前から行なっており、「ペンタブレットは作品制作には欠かせない機材だ」と語る。当然のごとく、ペンタブレットとマウスでは操作性がまったく異なるため、初心者には敷居が高い。諏訪氏は「初めは誰も使いこなせません。なので2~3日間、無理矢理でもいいので使い続けてください。それを乗り越えたら、もう手放せなくなります。ただ、初心者に気をつけてほしいのは指先に力を入れすぎようにすること。ペンの中心を持つようにすると疲れにくいです」とアドバイスを送った。
「覆い焼き」と「焼き込み」によるレタッチテクニック
撮影後にレタッチをする場合でも、「写真は撮影が重要。ピントと露出、構図を考え、自分が押し出したいところを決めてください」と語る諏訪氏。「作品の善し悪しを決めるのは、レタッチと撮影が半分ずつ」諏訪氏は考えているという。
セミナーで諏訪氏が多用したのは、「覆い焼きツール」と「焼き込みツール」。会場のスクリーンには道路に駐車したタクシーの写真が映し出された。この写真は道路の面積が広いため、見ている人の視線は道路に向けられてしまう。これをタクシーに向けさせるために、焼き込みツールを使ってタクシー以外の部分を暗くした。諏訪氏は「写真内の主役を明るくすると、視線はそこに向きます。今回はタクシーのドアの前に明るいエリアを残しておきました。こうすることにより、誰かが降りてくるのではないか……というストーリー性も生まれる」と解説した。
覆い焼きや焼き込みを行う際に注意すべきポイントは「露光量」と「ブラシサイズ」。露光量は5~10%くらいの低めに設定し、ブラシサイズは塗りたい範囲よりもひと回り大きめに調節する。そして、ペンタブレットの筆圧を使って柔らく描いていくのがコツ。一回なぞっただけでは違いがわからないくらいの薄さにするのが上手にレタッチを行なうテクニックだとのこと。
さらに、初心者にありがちな落とし穴として「撮影後に主役を変えてしまう」ことを指摘。あくまでもピントを合わせた被写体が主役なので、レタッチで写真の主役を変えようと思っても印象が薄い作品になってしまうという。カラー写真に焼き込みツールを使う場合は、色が破綻しない程度にとどめておくことも注意が必要だ。また、覆い焼きツールと焼き込みツールを使えば明暗をコントロールできるが、「一度暗くした部分を明るくすべきではない」と解説した。もし、やり過ぎた場合は、必ずアンドゥでやり直すのが大事。これは一度でもレタッチをしてしまったら、その部分は撮影された状態の階調が失われてしまっているからだ。
セミナーでは、このテクニックを使ってさまざまな写真の見せ方が紹介された。ヒマワリや渓流、小さなキノコなど、異なった被写体でも写真を見る人の視線を操作することは可能だ。諏訪氏は「どのようなジャンルの写真でも、覆い焼きと焼き込みツールのテクニックは使えるので、実践してください」と語った。