今回は最終回ということもあり、全8回にわたる研究会全体を、ディレクターである原と永原が振り返るとともに、現在、取り組んでいるプロジェクトの報告を行った。

「4月に『de』という電子書籍を創刊しました。iPad用のデザイン誌で、季刊での刊行を目指しています。iPadのスクリーン上では、紙ともコンピュータディスプレイとも違う、文字の扱いが求められます。具体的には、字間や行間の調整なのですが、制作中に気づいたのは、文字をきちんと使うことで、逆に、イレギュラーな使い方もわかってくるということ。つまり、崩すこともできるようになる。電子書籍とはいえ、文字と図の関係を視覚的に支えるというグラフィックデザインの役割に違いがあるわけではない。文字を使う側の工夫として、『de』は、見せ方や読ませ方の一例が提示できたかなと思っています」(永原康史)

2011年4月に刊行された季刊電子デザイン雑誌、『de』創刊準備号(iPadアプリ/無料)。特集は、源氏物語絵巻からデヴィッド・カーソンまで、1000年にわたる「本という技術」に照射。http://epublishing.jp/books-blog/jp/deno0-preparation-title.html

テキストや図像がレイヤー状で構成される「レイヤード・レイアウト」を実現し、電子雑誌ならではの読み方を提示する

テキストは可読性を鑑み、紙の雑誌よりも字間を緩めに設定しているとのこと。また、オンスクリーンでの美しい誌面表現を獲得するために文字設定、字間設定の調整をピクセル単位で指定している

「6月に原デザイン研究所の公式サイトをローンチしました。PCだけでなく、各種デバイスやタブレットでの閲覧も想定しているので、Flashは使っていません。また、日本語だけでなく、英語と中文を併記しました。目指したのは、ごく普通のサイト。しかし “普通”こそが難しい(笑)。僕のデザインは、つねに“掃除する”ことがポイントとなっています。つまり、余計なものを取り除いて、ミニマムな構造と、シンプルな見せ方だけで成立させたい。その際、必要になるのは、やはりタイポグラフィの品質。それはグラフィックであれ、オンスクリーンであれ、変わらないなと実感しました」(原研哉)

日本デザインセンター原デザイン研究所 Webサイト トップページ。2011年6月に開設。さまざまなデバイスに対応した設計、コンテンツが断片的に流通することを前提にした見せ方、多言語化、動作の軽快さ、ユーザーが言葉に触れる機会が増える、などといったキーワードをもとに制作された
http://www.ndc.co.jp/hara/

「WORKS」は作品を閲覧してもらうことにポイントを絞りシンプルな見せ方を意識(左)。「SNAPSHOT」はスタッフが撮影した写真と簡単なコメントを各々アップできる。クリックすると写真が拡大されコメントが見られる仕様に(右)

同サイトをMacで閲覧すると和文はヒラギノ、英文はTimes New Romanで表示され、Windowsの場合は和文がメイリオ、英文はGeorgiaが表示されるよう設定されている(写真はMacによる閲覧)

研究会の模様は、毎回、Ustreamで配信されるとともに、「マイコミジャーナル」、「Web Designing」、「+DESIGNING」(いずれも毎日コミュニケーションズ)など、Web媒体や印刷媒体でもリポートされてきた。なお、2011年9月には、内容を大幅に改稿し、リッチコンテンツを盛り込んだ議事録を、iPad用の電子書籍としてリリースする(発売元はJAGDA。アートディレクションは永原康史)。こちらも乞うご期待。

「言葉のデザイン2010」の議事録は2011年9月にiPad版電子書籍として刊行されることが発表された。現在制作中により発売に関しては後日、JAGDAよりアナウンスが予定されている

研究会を終えて



永原康史

昨年5月から丸1年続けたこの会も今回で一旦区切りをつけます。まずは全8回をまとめた電子書籍で何らかの成果をお見せできればと考えています。iPadの発売、電子書籍元年という浮かれた話ばかりでなく、震災、原発事故を経て、メディアのありようが問われる現在、オンスクリーンの文字が何をなしうるのかもう一度考えて、次の機会を設けられたらと思います。どうもありがとうございました。






原研哉

こんなに何回も続くなんて思いませんでしたが、思いがけず勉強してしまいました。永原さんとの夜中のツイートがはじまりでしたから、今の時代らしい出来事の発端でした。又、タイプフェイスコンテストで永原さんにお会いできるのも楽しみです。


(写真:弘田充)