「iPadやiPhoneユーザーにコンテンツを読んでもらうために専用アプリを用意する」――こうした傾向はなりを潜め、同様のコンテンツをWebベースで用意するという新たなトレンドが起こりつつある。発端の1つは先日Playboyがリリースした「iPlayboy」だが、iPhone時代の初期から専用アプリを用意していた英Financial Times (FT)もまた、この「Webでコンテンツ」の世界へと参入を果たしている。

FTがiPad/iPhone向けのWebアプリ「http://apps.ft.com/」をリリースしたのは6月7日(英国時間)のことだ。プレスリリースでの解説によれば、コンテンツはすべてHTML5で記述されており、つねに最新のものにアップデートされる形で利用できるという。一般的なWeb版やiOS版アプリと同様にコンテンツが読める一方で、アプリ版と同様な操作性も維持しており、例えば特定のページのショートカットをホーム画面上に作成し、これをタップすることでオフラインで記事を読むことも可能だ。一方でアプリ版とは異なり、アプリのバイナリを随時ダウンロードしてアップデートする必要はなく、「Webブラウザで随時アクセスするだけ」といった体裁を採っている。一定数までは記事を無料で読めるが、それ以上アクセスすると契約画面が出現してサブスクリプション登録とユーザーログインを要求される点も、従来のWeb版やアプリ版と一緒だ。

Financial Times (FT)のiOSデバイス用Webアプリ

FTでは、iPhoneアプリiPadアプリの2つをこれまでにも提供しており、どちらも今月に入ってバグフィックスを中心としたアップデートが行われているなど、決して放置されているわけではない。ではなぜ、わざわざアプリ版とは別にWeb版を用意したのだろうか。

その理由はiOS版アプリを配信するApp Storeにある。現在Appleでは、コンテンツ配信事業者に対して「アプリ内でコンテンツ課金を行う場合、支払い方法としてiTunes Storeを経由するオプションを必ず追加すること」というルールを課していることが知られている。これはコンテンツ事業者が個々にユーザーに請求を行うのではなく、AppleがiTunes Storeを経由して一括して料金徴収を行うというものだ。ユーザーにとっては支払いハードルが下がるというメリットがある反面、コンテンツ事業者にとっては「ユーザーの登録情報はAppleが握っていて把握できない」「中間マージンとして売上の30%を徴収される」というデメリットがある。また前述iPlayboyの例のように「アダルトゆえにApp Storeでの審査が通らない」コンテンツもあり、Appleによる配信コンテンツの内容への介入を嫌う事業者もいる。そのため、Appleの配信システムを経由しない今回のWebコンテンツへと傾く事業者が今後増加するのではないかと予測されている。FTのWebアプリはその最新の動きの1つだ。

実際にこういった試みが成功するケースは決して多くないと思うが、今回のFTの件については比較的好調なスタートを切ったようだ。Wall Street Journalの報告によれば、Webアプリ版のスタートから開始1週間程度で100,000人からのアクセスがあったという。これがどの程度の規模かというと、FTの有料デジタル版契約者数が224,000人なので、そのおよそ半分ということになる。英Journalism誌によれば、今後はさらにHoneycombタブレットやBlackBerry PlayBookなどにもターゲットを広げ、コンテンツを拡販していく戦略のようだ。