東北大学と北海道大学の共同開発チームは6月3日、小型地球観測衛星「雷神2(RISING-2)」のフライトモデルを完成させたことを発表した。元々は2011年3月末までに開発が完了する計画であったが、3月11日の東日本大震災にて機体や開発室への直接的なダメージは免れたものの、部品の一部に納入遅れが発生し、5月末の完成となった。

東北大と北大が共同で開発した「雷神2」(提供:東北大学)

同衛星は、2009年1月23日に打ち上げられた「スプライト観測衛星(雷神)」の後継機に当たるもの。初代の雷神は2009年2月4日に搭載機器に不具合が発生、以降は監視運用が継続して行われており、雷神2では不具合の原因であった電源系トラブルの見直し、強化が行われた。

また、姿勢制御システムには、大学生および大学院生による独自開発の姿勢制御機器を採用。まず、磁気センサと磁気トルカによるスピン抑制制御により姿勢を安定化させ、次いで、スターセンサによる姿勢計測に基づいて、リアクションホイールで目標方向へ姿勢を向け、定点指向制御を実現するものとなっている。

姿勢制御機器も学生らが開発(提供:東北大学)

さらに、雷神の開発経験を生かした構造を採用したことで、組み立てやすさの向上、アルミ削りパネルによる東北地方の企業での製造、振動試験の効率化による宮城県内施設での実施実現などが図られており、基本設計開始から18カ月での製造完了を実現したという。

雷神2の構造システム(提供:東北大学)

雷神2の開発に関与した東北地方の企業・機関(提供:東北大学)

雷神2の開発スタッフ(提供:東北大学)

雷神2の寸法は500mm×500mm×500mm、質量41kgのマイクロサットと呼ばれる小型衛星に分類される機体で、高度約700kmの太陽同期軌道衛星となる予定。1周回は約98分で軌道寿命は1~5年としているが、打ち上げに関してはH-IIAロケットの相乗り衛星の搭載条件には合わせてあるが、詳しい時期は未定で、開発チームでは2012~2013年度の打ち上げを計画している。

雷神2の目的は大きく分けて2つ。1つは「高解像度地球撮像ミッション」で、新規開発の解像度5mの望遠鏡(直径10cm、焦点距離1m)を用いて、カラー撮像+可変 波長撮像(液晶チューナブルフィルタの宇宙実証)を行おうというもの。新素材であるセラミックスミラーを先端技術で加工し、望遠鏡の軽量・高剛性化に挑戦した。また、液晶チューナブルフィルタは、1つのフィルターで400色でのマルチカラー撮影を可能とするもので、衛星として初めて実現しようという試みとなっている。

地上5m分解能撮影法の実現に向け、各種の新素材・新技術を導入(提供:東北大学)

もう1つは「最先端理学観測ミッション」として、雷神のアップグレードとしてスプライト(宇宙と地球を結合する放電発光)の謎に挑もうというもので、スプライトカメラ2機、魚眼カメラ、ボロメータアレイカメラ、VLF電波受信機を搭載し、積乱雲の高解像度ステレオ撮像、ならびに初代・雷神の観測センサを用いたスプライトなど高高度放電発光の撮像を計画している。

スプライト観測モードの概要と搭載されるボロメータアレイカメラの概要(提供:東北大学)

これらの観測により、全地球規模で災害現場を撮影できるようになるほか、積乱雲構造およびゲリラ豪雨のメカニズム解明、高高度放電発光現象のメカニズム解明、超小型衛星バス開発技術の向上などの成果が期待できるという。

観測技術が進むことで、地球規模での気象災害予測などもできるようになる可能性もでてくる(提供:東北大学)

なお、開発チームでは「東北からの震災復興の明るい話題提供としたい」としており、雷神2は超小型だからこそできる革新的な宇宙利用に向けた超小型人工衛星による高機能リモートセンシングのパイロットプロジェクトになるとしている。