エジソン氏から続く「発明の王道」を体現したダイソン氏

機能、デザイン、操作性。ダイソン氏はあらゆる面から、既存の掃除機市場にイノベーションを起こしてきた。その礎となった発明のエンジンは、同書から読み解くに、以下の3つに大別されそうだ。

JDAでは最終審査員も務めるダイソン氏。「問題に真正面から取り組み、シンプルかつ効果的にその問題を解決できるデザイン、アイデアを創出できる人を探しています。JDAは若いデザイナーやエンジニアのアイデアを支援することが目的です」と語る

1つ目は、『水平思考』だ。

ダイソン氏が王立美術大学(RCA)時代から開発を手伝い、最初に頭角を表した発明品が、「シー・トラック」という上陸用高速艇だ。

この開発中に知ったポリエチレンを球体に成形する技術が、次の成功につながる。車輪の代わりにポリエチレン製の球体をつけた「ボールバロー」という土木用押し車を発明。価格は従来品の数倍したものの、「轍がつかず、力もいらず操作できる」として、飛ぶように売れたからだ。

このボールバローの加工工程で、樹脂の粉末塗装をする際、塗布されなかった樹脂を集めて再利用するため、高さ10m弱に及ぶ巨大な遠心分離機「サイクロン」を使っていると知った。

言うまでもなく、それがかの名掃除機の着想のルーツだ。彼は目の前の「当たり前」を水平にずらし、別の場所にもっていくことで画期的なアイデアにしてきた。エジソン氏から続く「発明の王道」を体現してきたわけだ。

2つ目は、『アイデアを絞る』ことだ。

ダイソンの掃除機の長所は、セクシーなデザインに耐久性など多々あるが、ひとえに「紙パックがいらず吸引力が変わらない」サイクロン方式に尽きるだろう。たった一言で、「それはすごい」とわかるアイデアこそが、人をひきつける。「あれもこれも」と盛り込んだアイデアは、結局、焦点が絞りきれず訴求力が下がるというわけだ。

「なるべく余分なものを付け加えない」、それはダイソン氏のデザインルールであり、機能においてもそれは同じだ。

そして最後は、『粘り強さ』に尽きる。

先述の通り、幾度にわたる試作品の失敗も、資金難も、訴訟も、ダイソンは逃げ出さずにすべてにおいて真正面からぶつかってきた。既存の市場や権威を覆すような破壊的技術や製品は、先人たちに脅威を与えただろう。全力でつぶしにかかられるのも当然かもしれない。

「居座るテナントを立ち退かせるのは困難をきわめるだろう」と、ダイソン氏は同書で指摘している。だがその一方で、彼はこうも語る。「僕は賢い人間ではなく、根気強い人間でいるつもりだ。だって、根気強くがんばってきたおかげで、とうとうサイクロン式掃除機を自分の手でものにしたんだからね」

3つの信条を胸に、今度はあなたが知恵を絞り、彼に脅威を与える番だ。

JDAはデザインやエンジニアリングを専攻する学生および卒業生を対象に、世界18カ国で同時開催。国内最優秀賞は9月6日、国際最優秀賞は11月8日に発表される。同アワードの概要など、詳しくはJDAホームページまで

「2011年ジェームズ ダイソンアワード」の作品応募期間は2011年8月2日まで。国内最優秀賞に選ばれると賞金1,000ポンド(約13万円)が贈られる。国際最優秀賞の受賞者には賞金1万ポンド(約130万円)が贈られ、受賞者が在籍または卒業した大学にも寄付金1万ポンドが授与される。

著者プロフィール

箱田高樹(はこだ・こうき)
ライター、編集者。1972年、新潟県生まれ。江戸川大学社会学部マス・コミュニケーション学科卒業。カデナクリエイト所属。「PCfan」(毎日コミュニケーションズ)、「BIG tomorrow」(青春出版社)、「DIME」(小学館)、「週刊東洋経済」(東洋経済新報社)などで、働き方、生き方、コミュニケーションに関する記事を執筆。最新刊の『カジュアル起業 "好き"を究めて自分らしく稼ぐ』(マイコミ新書)をはじめ、著書多数。