たった500m、されど500m

SNSが開発したロケットの1号機は「はるいちばん」と名付けられた。この「はるいちばん」の主なスペックは以下の通り。

  • 全長 約3.5m
  • 重量 約16.5kg(推進剤は含まず)
  • 誘導方式 無誘導方式
  • エンジン 推力100kgf級液体燃料エンジン

前述のように、今回の機体はCAMUIロケットがベースであるが、エンジン、テレメトリ、カメラなどは独自に用意したものだ。エンジンについては、CAMUIが固体の燃料と液体の酸化剤を使うハイブリッド型だったのに対し、SNSは燃料も酸化剤も液体のエンジンを採用しているのが大きな違い。燃料は現在エタノールを使っているが、堀江氏はいずれケロシン(灯油)に切り替えることを明言している(酸化剤は両者ともに液体酸素)。

手前がSNSの「はるいちばん」で、奥に見えるのがCAMUIロケット

「はるいちばん」を前から見たところ

あさり氏が説明のために描いた「はるいちばん」の構造図

エンジンの燃焼室がある尾部。飛行を安定させる尾翼が付いている

機体の中程にはイラスト入り。おそらくは世界初の"痛"液体燃料ロケット

先端部には機体回収時のためのパラシュートが格納されている

エンジンの推力は、ピーク時が約120kgf、平均が約100kgfだという(エンジンの性能としては比推力も気になるところだが、これは非公開)。燃焼室はFRP(繊維強化プラスチック)製のため、燃焼時には内面が溶け出してしまうが、気化熱で冷却すると同時に発生したガスが断熱材にもなるので、高温に耐えることができる。このようなものをアブレータ方式と呼び、JAXAが開発して2009年に燃焼実験を行ったLNG実機型エンジンでも採用されていた。

ちなみに、この100kgf級エンジンは地上では20秒程度燃焼させた実績があるものだが、今回の打ち上げ実験では搭載燃料を少なくすることで、燃焼時間を2秒程度に制限している。これは、安全のため飛行高度を500m以下に抑えているためで、燃料をもっと搭載すれば数kmくらいは飛んでいく能力がある。今回は「本当に飛べること」のデモンストレーションが目的とも言えるので、飛行高度については重要なポイントではない。

打ち上げた機体は上空でパラシュートが開き、ゆっくりと降下。地上で回収する。誤解の無いように補足するが、「はるいちばん」は打ち上げそのものが実験なのであって、位置付けとしてはまだ試験機の段階。機体を回収できれば、そこから様々な知見やデータを得ることができるので、打ちっ放しにするわけにはいかないのだ。大樹町で地上回収するためには高度はせいぜい1kmが限界で、もっと高く飛ばす場合には海上回収が必要となる。

2014年にも衛星を打上げ

当初、打ち上げ実験は3月12日に予定されており、筆者も前日(3月11日)午前に北海道入りしたのだが、よりによって同日午後に東日本大震災が発生。津波警報が解除されないこともあって、12日の午前中に打ち上げの中止が決まってしまった。無風・快晴の打ち上げには絶好のコンディションだっただけに、なんとも残念であるがこればかりはどうしようもない。

前日夕方の記者会見に出席した堀江貴文氏(中央)と植松電機の植松努専務(右)

12日早朝の記者会見ではまだ様子見だったが、このあと中止が決定

そして26日に再チャレンジの機会を得たわけだが、残念ながらこのとき筆者は取材に行くことができなかった。ただ、初回の取材にも同行したNVS北海道のgoma氏がYouTubeにアップした動画があるので、26日の打ち上げについてはそちらをご覧頂きたい。発射からパラシュートが開いて着地するまでが見事にカメラに収められている。

今回の飛行高度はわずかに500m(正確には461m)であり、宇宙はまだ遥かに先にあるが、それでも初めての打ち上げに成功した意義は大きい。堀江氏は打ち上げ後の記者会見で「机上の空論ではなく、地上での燃焼試験を何度もやって、実証データを積み重ねてきた。そうすればきちんとできるんだと分かったことがすごく大事なこと」とコメント。「我々がやってきたことは間違っていなかった」と自信を見せた。

SNSはこの100kgf級エンジンのほか、より強力な500kgf級エンジンも開発しており、これをクラスタ化・多段化することで、まずは超小型衛星の打ち上げを目指す。クラスタ化・多段化はまだCAMUIもやっておらず、技術的にやるべきことは多いだろうが、超小型衛星を打ち上げる潜在的なニーズは高い。打ち上げ費用は1,000万円以下を狙っており、これが実現すれば超小型衛星をビジネスに使おうという動きも出てくるだろう。

※クラスタ化とは、複数台のエンジンをまとめることで推力を向上させる技術。1台の大推力エンジンを開発するのに比べ、短期間・低コストで実現できる傾向があるほか、量産効果によるコストダウンも期待できる。ロシアのソユーズロケットなどで採用されており、世界的には珍しい技術ではないが、日本ではH-IIBロケット(2009年打ち上げ)で初めて採用された。

実用化の時期として「2014年」というターゲットが掲げられているが、彼らの最終目的は衛星の打ち上げではない。もっと先にある。