新JavaScriptエンジンとGPU支援機能でスピードアップ

Internet Explorer 9の変更点はUI面だけではありません。内部的な改良を加えることで、パフォーマンスの改善と描画内容の充実が図られました。これらの改良点は三つに大別されます。

一つめはリッチなWebコンテンツが増えた昨今のWeb事情を踏まえ、新たなJavaScriptエンジン「Chakra(チャクラ)」を搭載しました。繰り返しになりますが、これまでのInternet Explorerは保守性を優先し、仕様が変わるような更新を避けていた様に見えます。Internet Explorer 6のJavaScriptエンジンは、後発のサードパーティ製Webブラウザーに追随を許し、Webブラウザーシェアに影響を及ぼす結果となりました。もちろんMicrosoftが、この結果を黙ってみていたわけではありません。Internet Explorer 7以降はパフォーマンスの改善に尽力してきましたが、結果はご覧のとおり。そのため、Internet Explorer 9では、開発コード名を設けた新JavaScriptエンジンの搭載に至ったのです。

Chakraが高速に動作する秘密は、JavaScriptコードをコンピューターが実行できるようにする変換システムを、インタプリタというコードを解析してから実行する仕組みから、コンパイラというコンピューターの機械語に変換して実行する仕組みにあります。また、このコンパイル処理はバックグラウンドで実行されると同時に、マルチコアを用いて並列処理されますので、コンピューターの性能をフル活用しつつ、リッチなWebページの表示が可能になるのです。

このほかにもJavaScriptを実行するために必要なライブラリの最適化など、様々な改善が加わっていますが、エンドユーザーとしては「Internet Explorer 9は速くなった」と認識しておけば十分でしょう(図33)。

図33 各Webブラウザーに対するJavaScriptベンチマーク結果(IE Test Drive: WebKit SunSpider JavaScript Benchmark Resultsから)

二つめはGPUアクセラレーションの活用です。Windows OSのグラフィック機能とGPUによる支援機能を用いて、アニメーションや、これまで以上のインタラクティブなWebページの描画スピードが速くなりました。

もちろん、これらの結果を引き出すにはコンピューター側にある程度のスペックが必要となり、比較的低スペックなネットブックや古いコンピューターでは、満足行くスピードが出ません。その際はインターネットオプションダイアログの<詳細設定>タブにある<GPUレンダリングでなく、ソフトウェアレンダリングを使用する>にチェックを入れて、Internet Explorer 9を再起動してください(図34)。

図34 インターネットオプションダイアログの<詳細設定>タブでは、GPUアクセラレーション機能の有無を設定できます。古いコンピューターでは、ソフトウェアレンダリングを用いることでトラブルが改善されることもあります

最後の三つめはHTML5のサポートです。改めて述べるまでもなく、WebページはHTML(ハイパーテキスト マークアップ ランゲージ)と呼ばれるマークアップ言語で構成されていますが、Webページの表現性を高めるため、過去に数回の改訂が行われてきました。HTML5は五回めの改訂版となり、Adobe FlashやSilverlightといった動的コンテンツを実現するプラットフォームを置き換え、Webブラウザー単独でリッチなインターネットアプリケーションを実行できるようになります。

Internet Explorer 9はこのHTML5や、CSS3(カスケーディング スタイルシート3:Webページの修飾を行う規格)をサポートしていますが、前述のGPUアクセラレーション機能もHTML5の描画に寄与しています。MicrosoftはInternet Explorer 9に対応したデモページやWebページのリンクを用意しています。(図35~38)。

図35 Internet Explorer 9のパフォーマンスやHTML5対応のデモコンテンツが並ぶ「Internet Explorer Test Drive

図36 こちらはInternet Explorer 9に最適化されたWebサイトのリンク集となる「Beauty of the Web

図37 HTML5を駆使して構築された「The Shodo」。Webブラウザー上で書道を体験できます

図38 お馴染みのレトロゲーム「パックマン」をInternet Explorer 9で楽しめる「World's Biggest PAC-MAN