戸田工業および東北大学大学院電子工学専攻の高橋研教授、小川智之助教らの研究グループは、これまで粉末として単相を分離・生成することができなかった強磁性窒化鉄(レアアース磁石)を合成する手法を確立したことを発表した。同成果は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「希少金属代替材料開発プロジェクト」として実施され、同プロジェクトには京都大学、千葉工業大学、倉敷芸術科学大学、戸田工業、帝人、トヨタ自動車、物質・材料研究機構、産業技術総合研究所(再委託)、電気磁気材料研究所(再委託)の10機関が参加した。

強磁性窒化鉄は、1972年に東北大学の故高橋實教授がその存在を提唱したが、当時は薄膜としては得られたものの、粉末として抽出することはできなかった。また飽和磁化などの実験データの再現性に乏しく、磁石性能を表わす指標である結晶磁気異方性に関するデータもなかった。近年、ナノ粒子合成技術の進歩により、粉末での一部生成確認がなされてはいるものの、強磁性窒化鉄の含有率(生成率)が低く不純物による影響もあり、再現性も含め期待されるような磁気特性は得られていなかった。 今回の研究グループによる成果は、戸田工業が強磁性窒化鉄に最適な原材料を合成し、それを用いて高含有率強磁性窒化鉄が得られる前駆体の合成技術を東北大学が開発したことによって実現した産学連携の成功例となり、グラムオーダーでの作製再現性も確認しているという。

図1 得られた窒化鉄サンプル

X線回折による結晶構造解析から、窒素原子が歪んだ鉄の結晶構造中で秩序を持って配列していることを意味する超格子回折が多数観察されており、合成した強磁性窒化鉄は図2に示されるα"型の結晶構造であることも確認しているという。

図2 α"型窒化鉄の結晶構造

また、飽和磁化値は50Kの極低温において230emu/g、室温においても221emu/gを示し、理論値(240emu/g)に迫っているほか、従来のバルク形態純鉄の飽和磁化値220emu/g(50K)および218emu/g(室温)を上回ることからも、その高い含有率を認識できる。

図3 現行のNd2Fe14B粉末と今回単相分離したα"型窒化鉄粉末の磁気特性。得られた粉末はα"型窒化鉄薄膜と同等であることが分かる

さらに、ある一定の外部磁場で磁化が反転する様子を詳細に解析した結果、磁石としての特性を左右する結晶磁気異方性定数はこれまでの強磁性窒化鉄薄膜形態の実験での最高値である約1x107erg/cm3相当になることも確認したという。

なお、今回得られた合成手法は生産性や収率も高く、大気中に取り出しても安定であるため、量産プロセスへの移行も障壁が低く、実用化に向けた期待ができると研究グループでは説明している。