東北大学大学院生命科学研究科の山元大輔教授らの研究グループは、ショウジョウバエの雄だけに存在する脳細胞が、雌に触ることで興奮し求愛行動を引きおこすことを発見したことを明らかにした。米国の科学誌「Neuron」の2月10日号に掲載される予定。

ショウジョウバエの雄は普通、雌がいないと求愛の動作をしないが、雄だけに存在するP1細胞という名の脳細胞を人工的に興奮させると、ひとりぼっちの雄がまるで雌がそこにいるかのように求愛を始める。

研究グループでは、雄の頭部を固定して脳のP1細胞の活動を蛍光シグナルによりモニタしながら、雄に雌を触らせたところ、触った直後にP1が興奮を起こしたことを発見、P1細胞こそが雄に求愛を始めさせる脳のエロスの源泉であるとの結論を出した。

具体的には、雄はまず前脚で雌の腹部を触り、脚の受容器でフェロモンを感知。続いて片翅を振るわせてラブソングを発し、雌の交尾器をなめるリッキングをした後、雌にマウントし交尾するが相手がいなければ求愛は決して行わない。すでに、fruitless(フルートレス)という遺伝子がこの行動を生み出す神経回路を作る指揮をとっていることが分かっているが、高温で神経細胞に興奮を引き起こす分子をfruitlessが働いている細胞にだけ持たせたところ、温度を上げるだけで孤独な雄が求愛を始めたことが確認された。その後、興奮させる細胞を減らしていった結果、P1細胞という脳細胞が求愛を開始させ、P2b細胞がそれを運動系に伝えることが判明した。

また、雄の背中を針金の先に固定し、脚に球を抱かせると、雄は地面を歩いているつもりになって球を回すが、この雄の前脚に雌の腹部で触れて刺激すると、求愛を始める。研究グループでは、この状態で頭に窓を開け脳を露出させ、脳細胞の活動を観測することに成功した。脳細胞の興奮を蛍光の変化で可視化するカメレオンという分子を利用して調査した結果、雄が前脚で雌を触ると、P1細胞が興奮することが判明し、フェロモン情報が行動司令細胞のP1細胞に送られ、雄の性行動の引き金を引くことが確認されたという。

背中で固定され球を抱えた雄のショウジョウバエに雌の腹部を提示した様子

研究グループでは、今回の研究は、司令細胞を興奮させる分子を利用して、たとえば農水産業に応用可能な生殖行動制御法を開発するための基盤を提供することが期待できるとしている。