2010年9月に第4世代iPod touchが発売されてから約4カ月が過ぎた。かつて「電話機能のないiPhone」などと言われたこともあったiPod touchは、いまやiPodシリーズの中核製品として、たんなる"音楽プレーヤー"を超えたデバイスとして、新たな市場にそのターゲットを定めている。

iPod touch登場 - 携帯機能のないiPhone!?

第1世代iPod touch

第1世代のiPod touchが発表されたのは2007年9月。タッチパネルを使った先進的ユーザーインタフェースを採用し、オーディオプレーヤーながら「カレンダー」や「計算機」といった"アプリ"を搭載するという、それまでに発売されたiPodシリーズのさまざまな製品とは一線を画す新機軸の製品だった。

ただし、その時点における多くのユーザーの評価は「多機能なオーディオプレーヤー」というものだった。なにしろ、当時はApp Storeのサービスもはじまっておらず(App Storeのサービス開始は2008年7月)、現在のように多様なアプリを利用する基盤が整っていなかったのだ。それと同時に、「電話機能のないiPhone」と揶揄的に言われることも少なくなかった。こういった評価は、とくに日本では、のちのちまで続くことになる。

App Storeは2008年7月、iPhone 3Gの発売に合わせてサービスを開始。2010年6月にはアプリ数約20万本、ダウンロード数は約50億本を超えたという

その後、iPhoneの爆発的なヒットを受け、App Storeに登録されるアプリは質・量ともに大幅に向上。iPhone/iPod touchのプラットフォームも「iOS」とその名を変え、2010年4月に発売されたiPadを含めたiOSデバイスは全世界で1億台を突破するという状況になっている。このiOSデバイスの躍進には、iPodシリーズで最大の売上を達成するようになったiPod touchの存在が大きく貢献している。

ライバルは音プレーヤーではなく携帯ゲーム機

第4世代iPod touch

そして2010年9月、第4世代のiPod touchが発表された。このモデルは、3軸ジャイロセンサーや背面・前面のカメラを搭載するなど、いかに多機能を売りにしているとはいえ、「オーディオプレーヤー」というカテゴリの製品に対してはユーザーのニーズを超えるようなものだった。それもそのはずで、もはやアップルはiPod touchを音楽プレーヤーとして提供するつもりはないようなのだ。

そのことは、第4世代iPod touchが初公開された9月2日のスペシャルイベントにおいて、CEOのスティーブ・ジョブズ氏が行ったプレゼンテーションからも推測される。ジョブズ氏はプレゼンテーションの中で「iPod touchは携帯ゲーム機としてナンバーワン。売上は任天堂とソニーを合わせた数字を上回り、携帯ゲーム機市場におけるシェアは50%超」と紹介している。つまりアップルは、iPod touchをニンテンドーDSやPlayStation Portableに対抗する携帯ゲーム機、エンターテイメントデバイスであると考えているわけだ。

9月2日のスペシャルイベントにおいて、iPod touchの売上が任天堂とソニーを合わせたものを上回り、50%超のシェアを獲得したことを紹介

ひるがえって日本国内では、いまだにオーディオプレーヤーであるiPodシリーズの1つとしての印象が強いためか、iPod touchも他社のオーディオプレーヤーと比較される。しかし、これほど多機能なマルチデバイスを普通のオーディオプレーヤーと比較しても、正しい評価は難しい。そろそろ日本でも、iPod touchはオーディオプレーヤーの枠を超えたマルチデバイスであるということが認識されるべきだろう。

なお、この位置づけはアップルがそう主張しているというだけでなく、米国などではユーザーからもiPod touchはゲーム機あるいはゲームも楽しめるエンターテイメントデバイスであると受け止められているようだ。日本国内にいるとピンとこないかも知れないが、ゲームおよびエンターテインメントのジャンルでApp Storeからダウンロードされているアプリの本数がiPod touchのみに限っても15億本を超えているということからも、その位置づけの妥当さはうかがえる。任天堂の岩田聡代表取締役社長も海外メディアに対して、アップルを将来の敵と認める発言をしている。

iOS向けゲームにもビッグタイトルが多数登場

このような状況を受けて、iOS向けゲームアプリの状況も変わりつつある。以前は比較的小規模な開発チームによるアイデア勝負、手軽さ重視のゲームも多かったが、参入企業が増え、大手ゲームベンダーもアプリの提供をはじめたことで、他の携帯ゲーム機と遜色のないクオリティのアプリが多数リリースされるようになった。また、家庭用ゲーム機や他の携帯ゲーム機で実績があるブランドタイトルのローカライズ版が続々と出てきているというのも最近の流れといえる。

前述のスペシャルイベントにおいては、iOS 4.1の機能のひとつとして、「Game Center」を利用したゲーム「PROJECT SWORD」のデモも披露された

「東京ゲームショウ2010」では、iPhone&iPadブースに多数のメーカーがさまざまなゲームを出展。「ストリートファイターIV」「太鼓の達人プラス」のようなビッグネームも展示されていた

iPod touchなどのiOSデバイスは、ボタン類を極力使用せず、ほとんどの操作をタッチパネルで行うというインターフェースを採用している。このため、ゲームの操作もシンプルでわかりやすいというのがiOS向けゲームのひとつの特徴だ。また、ネットワーク通信を介して世界中の人と遊ぶことができる「Game Center」のようなプラットフォームが存在することも、市場の活性化には大いに役立っている。

もちろん、"ゲーム機"ではなく"エンターテイメントデバイス"だから、ネットワーク機能、カメラ機能、音楽/ビデオの再生機能も重要。ネットワーク機能によってFaceBookやTwitterなどのSNSへアクセスしたり、ビデオ通話を行ったりというのも広い意味でのエンターテイメントのひとつだ。

このようにiPod touchは、アプリによる拡張性を軸に、たんなる音楽プレーヤーを超えた製品へと成長してきた。その点をしっかり認識しないと、今後続々登場してくるであろう小型タブレットや電子書籍リーダーを正しく評価することは難しい。なにしろ、小型のエンターテイメントデバイスの市場では、すでにiPod touchという製品が大きなシェアを獲得してしまっているのだ。