--当初、Symbianが提唱していたスマートフォンという言葉が、AppleやAndroidのものになりました。この状況をどう見ていますか?

Appleは、いくつかの面で評価できると思います。まず、アプリケーションをどうやってインストールするか、わかりやすい広告を作りました。これまでどのメーカーもしなかったことです。2つ目に、高速かつ洗練されたWebブラウザを用意しました。3つ目は画面を大きくし、タッチ操作を可能にしました。これらをうまくパッケージしただけでなく、すでに多くの人がクレジットカード番号を提供している「iTunes」を利用しました。ユーザーは使い慣れたiTunesを使って、簡単にアプリをインストールできます。これは、古いスマートフォンができなかったことで、賞賛に値すると思います。

「UIQ」(SymbianのUIの一種)を利用していたSony EricssonやMotorolaのユーザーは、S60(NokiaのSymbian UI)よりもアプリを多くインストールしていたと思いますが、概してアプリのインストールはわかりにくかったと思います。

Appleはエンジニア、ユーザービリティ、マーケティングなどすべてを適切で、万全な状態でローンチし、一夜にして状況を変えました。そして、米国市場などSymbianよりも幅広い地域にスマートフォンという言葉を伝えました。

時として、新しい市場は最初に始めた企業ではなく、2番手や3番手の功績と思われます。Amazonが良い例です。最初にインターネットで書籍の販売を始めたのはAmazonではなかったはずですが、Amazonは優れたユーザーエクスペリエンスとサービスで成功し、いまではAmazonが草分けと思われています。

Symbianのリーチが低かった米国をはじめ、これまで解決されていなかった問題(アプリのインストール)を解決したAppleやGoogleが、結果としてスマートフォンを広げることになりました。スマートフォンという市場ができたことで、他の企業も活用するでしょう。Nokiaの新CEOは米国と関係が強く、北米市場を強化すると思います。今度は、AppleとGoogleのおかげでスマートフォンを発見したユーザーが、NokiaのSymbian端末を再発見するかもしれません。

--AccentureではAndroidも扱っているということですが、外部の人間としてみたとき、AndroidとSymbianの違いは何だと思いますか?

Androidは、"クール"と認識されています。ユーザー層をみても、AndroidはiPhoneよりも若いように見えます。プログラミングもモダンで、アプリ開発が容易なので、迅速にエコシステムに参加できます。Nokiaも「Qt」でこの部分に対応しようとしているようですが、当面はAndroidが開発者をひきつけるでしょう。Googleサービスを容易に提供できる点もメリットです。

メーカーからみた長所は、端末の開発が容易という点です。Androidに興味があるメーカーは、すぐに試作機を作って数カ月でこんな端末を作った、と経営陣にアピールできます。Symbianは端末の開発に時間がかかります。既存のメーカーはよいが、Symbianでスマートフォンに参入しようと思うと作業負担はAndroidより大きくなります。

AndroidはLinuxコミュニティというメリットもあり、デバイスドライバなどを入手しやすく、プロジェクトをスムーズに立ち上げることができます。ですが、機能を見るとそれほどリッチとはいえず、作成後、SymbianにはあってAndroidにない機能に気が付くこともあるでしょう。ですが、(Androidは)ほとんどのユーザーに満足がいく機能レベルなので、大きな欠点になることはないようです。シンプルでクールな端末を持ちたいというユーザーのニーズを十分満たしています。

--SymbianをサポートしていたSamsung、Sony EricssonがAndroidを選んだことをどう見ますか?

Sony Ericssonは、「p900」「p910」など素晴らしいSymbianスマートフォンを作っていました。その後少しペースが遅くなったようですが、最新の「Vivaz」は良くできていると思います。消費者からの人気も高く、ひょっとするとSony Ericssonにとってこれまでで最も売れたSymbianスマートフォンの1つかもしれません。ですが、Sony Ericssonはプラットフォームを選択する必要があり、開発が容易なAndroidに賭けることにしたのでしょう。

SamsungはAndroidのほか、「Bada」「Windows Mobile」もサポートしていますが、プラットフォームをある程度減らしていくようです。

わたしの印象では、オペレータやベンダはいまでもGoogleに多少の疑いを持っていると思います。GoogleはAndroidをうまく軌道にのせるという点で成功を収めましたが、将来、経済状態が悪くなるとGoogleの狙いとベンダの狙いが食い違ってくるかもしれません。Samsungのように、一部のベンダは自社でもプラットフォームを持っておこうとしているし、Sony EricssonもフォーカスはAndroidにあると述べていますが、だからといって完全にSymbianの選択肢を捨てたわけではないと思います。

--昨年のSymbianカンファレンスで、マーケティング専門家のGeoffrey Moore氏が「モバイル市場もPC市場のように1つの独占的なOSが制覇する市場になる」と予言しました。この見解をどう見ますか?

モバイルに独占的なOSが生まれる必要はないと思います。業界は独占的OSが市場を制覇することを快く思っていません。1社が多大な権力を得てしまうからです。PCのようにならないとは言い切れませんが、業界はPCのようになることを望んでいないということはいえると思います。

--アプリケーション開発者は今後もさまざまなOSに向けて開発するという状況が続くのでしょうか?

JavaなのかQtなのか、それともHTML5なのかわかりませんが、相互運用性のあるフレームワークが利用されると思います。さまざまなアプリストア向けに卸売りするというWholesale Applications Community(WAC)などの活動も出てきています。Internet of thingsの時代でも、さまざまなプラットフォームが存在することになると思います。

--スマートフォン業界のもう1つの話題が訴訟です。Apple、Nokia、Motorola、Microsoftと訴訟のニュースが絶えません。

クレイジーな状況だと思います。このような状況が望ましいかと聞けば、全員が「ノー」というでしょう。ですが、核兵器問題と同じです。みんながいっせいにやめればよいのですが、なかなかそうはいかない。

特許は正しい目的にも利用できますが、訴訟の原因にもなり、ここに大金が流れ込んでいます。これは経済を動かしていく方法として正しいものではないことは明らかです。経済をもう一度設計しなおすことができるなら、特許のあり方は変わると思います。

訴訟を起こしている企業を批判する気はありませんが、特許システムそのものが機能していないと思います。特許の中には重要で意味があるものもありますが、中にはあいまいなものもあります。特許システムが早く改善に向かってほしいと願っています。