Intel最大のイベントであるIDFの開幕直前というこのタイミングで、米オレゴン州のヒルズボロ市を訪れる機会を得た。もちろん単なる観光というわけではない。Intelと言えばシリコンバレーのイメージだが、Intel重要な製造工場や開発拠点は、ここヒルズボロに集中しているのである。

野リスも見かけるような何も無い田園風景の中に、突如として大きな建造物が出現したりすると、なんとIntelの重要施設だった……というのがヒルズボロ市

例えば、Intelの半導体Fabは各地に存在しているが、各Fabで利用されている製品の生産技術は「Copy Exactly」と呼ばれる手法でコピー移転されたものだ。Copy Exactlyとは、○○mmウェハで○○nmプロセスのプロセッサの生産技術を、最初にどこかの開発Fabで確立させ、後は他の製造Fabへと確立済み技術完全コピーで移転し、一気に量産を開始するというもので、Intel製品において、新プロセッサの生産歩留まりが量産開始当初から高い理由のひとつにもなっている。つまり、Copy Exactlyの大元の開発Fabがどこかにあるわけだが、ヒルズボロにある開発Fab「D1D」こそが、その大元Fabだったりしている。

「D1D」も発見。滅多なことでは中には入れず、まぁ普通は撮影も許可されない施設なので、ちょっと隠し撮り風味の望遠写真だけでお届け。ちなみに「D1D」の最初のDは、DevelopのD。他にもD1CなどD1系Fabがあって、D1Dは最新。ここで量産技術の確立をし、各地のFabへとコピーして行く。それだけに重要な施設となっている

また、Intelのプロセッサで、ヒルズボロのいわゆる"オレゴンの開発チーム"と言えば、最近でもPentium 4のNetBurstアーキテクチャや、Nehalemアーキテクチャの開発で有名で、その存在を知っている読者も多いかと思う。ついでに、街中をちょっと散策してみると、Willamette(ウィラメット)川だのTualatin(テュアラティン)渓谷だのと、PCマニアならニヤリとなりそうな"地名"もそこかしこに点在している。まさにIntelの"聖地"と呼べる街なのだ。

Intelの最新データセンターを見てきたぞ

ヒルズボロのデータセンターの中の様子。撮影禁止だったので写真はIntel提供のものだ。なお、厳重なセキュリティのため、施設のロケーションすら口外禁止で、当日に中で見聞きした内容も制限付きでしかお伝えできない。なんというか、写真からなんとなくイメージして欲しい

さて、研究開発はじめ世界中のIntelのあらゆるビジネス活動を支える「データセンター」のうち、大部分がヒルズボロにあり、今回は折りよく実際にその施設の中を見せてもうらうことができた。なお、各地のデータセンターのデザインもヒルズボロのチームが担当しているのだという。当日は、同社データセンターを運用する米Intel IT部門のEngagement Grou General ManagerであるSteve Collins氏に、Intelのデータセンターの取り組みの概要も紹介してもらった。

米Intel IT部門のEngagement Grou General ManagerであるSteve Collins氏

2010年時点でIntelのIT部門は、全世界で25カ国62拠点に6,300人の担当社員を抱え、61カ国150拠点の78,900人に及ぶIntel全社員の活動を支えている。そのためのデータセンターは95カ所もあり、敷地面積はあわせて410,000平方フィート、そこで100,000台近いサーバマシンが稼動している。そして社員が利用するクライアントデバイスの数は105,000台という、すべてが途方も無い規模となっている。

さて、近年の不況もあり、このようなIT部門ではコストカットの要求が高くなる。一方でCollins氏は、社員の生産性を向上できれば、ビジネスの成長を促すことが出来るとの考え方から、IntelのIT部門では、単なるコストカットではなく、競争力の向上、価値の創造を命題としていると説明する。

IT部門が会社のビジネスを成長させるという考え方

Intel IT部門のデータセンターは、Design、Office、Manufacturing、Enterpriseの主に4つの用途(Collins氏は頭文字をとって「DOME」と呼称していた)で利用されている。この中でもっとも多く、約70%のリソースを裂いているのがDesignだそうで、同社の半導体設計チームのコンピューティング環境に充てられており、マイクロアーキテクチャのアーキテクトなどもこの環境でアプリケーションを利用しているという。データセンターのパフォーマンス如何によって、製品開発のスピードにも影響がでるというので、データセンターが同社のビジネスの根幹にもかかわる設備であることが良くわかる。

Design、Office、Manufacturing、Enterpriseで「DEMO」。製品開発のスピード向上や、サイクルの維持は、Intelのビジネスの最重要ファクターだろう

ところで、IT部門のクライアント管理というと、筆者の実感から言えば"とにかく規制だらけ"というのを想像してしまう。例えば、ノートPCの持ち出し禁止だとか、社内では決められた横並び規格のPCで、OSも数世代古いWindowsしか認めない……など、多数のクライアント管理は困難なことなのだろうが、管理される方から見れば不便に思えることが多々あるだろう。10万台以上のクライアントを管理するIntelは果たして、と言うと、これがとても柔軟なのである。

クライアント数は先にも述べた105,000台で、うち80%以上はモバイルPC、他にも14,000台のハンドヘルド、つまりはiPhoneなどのスマートフォンも含まれるなど、クライアントには様々な種類のデバイスが混在している。さらにCollins氏は、出先のスターバックスからであっても、社員がHDビデオなどのリッチコンテンツや、SNSなどのサービスも存分に利用できる環境を整えることで、社員の創造性や生産性は向上し、Intelのビジネスを加速できると話していた。

もちろん、ここまでやってしまうと、パフォーマンスが上がる代わりにコストが上がってしまいそうなものだが、データセンターの設備の最適化を進めることで、かえってコスト削減の効果が大きく出せるのだそうだ。Intelのデータセンターは設備の更新サイクルが4年ごとに定められており、ちょうど2010年はその更新のタイミングだった。2010年は例えばサーバを最新のXeon 5600マシンに移行させるなどして電力コストを2006年比で90%削減できていたり、クライアントPCへのIntel vPro技術の導入が進んだことでサポートコストの大幅低減も実現できていたりしているとされていた。

Intelはよく顧客に対し、同社製品のデータセンターへの導入と、定期的な設備リフレッシュによる、生産性向上とコスト削減などの効果をアピールして来ているが、自社のデータセンターでの成果は、その実証も兼ねてしまっているように見えた。なお、このIT部門の取り組みの詳細については、こちらの記事でも詳しくレポートしているので、あわせてご覧いただきたい。

次世代マザーボードの開発状況も見てきたぞ

今回訪れたIntel Client Boards開発事業部のオフィスの廊下。歴代Intelマザーボードがずらりと展示されていた

いわくつき(?)のIntel 820搭載の「Vancouver」。筆者の場合はIntel 440BXのマザーボードを何枚も買うことになった過去が蘇る

Yorkfield×2基ができちゃう「SkullTrail」。Xeon対応の自作向けマザーボードが冬の時代に、デュアルCPUファン期待の一枚だったが、FB-DIMMがちょっと……

一番古かったのがこの「Batman」。1993年登場で、初の"Pentium"対応マザーボードだ

データセンターに引き続き、同じくヒルズボロ市内の別のキャンパスにある、マザーボード製品の開発拠点にもお邪魔させてもらった。ここでは、自作PCユーザーが、いわゆる"Intel純正"と呼ぶマザーボード製品の開発を担当している事業部で、米Intel Client Boards DivisionのGeneral ManagerであるJoel Christensen氏が出迎えてくれた。

米Intel Client Boards DivisionのGeneral ManagerであるJoel Christensen氏

様々な新製品や、製品開発のコンセプトなどを紹介してもらったのだが、まず何よりお伝えしたいのが、おそらく国内メディア向けでは今回が初公開となる未発表マザーボード「Smack Over 2」(開発コードネーム)だ。「Smack Over」と言えば、LGA1366ソケットのハイエンド向けCore i7に対応し、同社デスクトップ向けマザーボードの最上位に君臨する「DX58SO」の開発コードネームであり、Smack Over 2はその後継モデル。略して"SO2"なので、製品名はおそらく「DX58SO2」ということになるだろう。発売は今年のQ4を予定し、価格はDX58SOより"ちょっと高い"くらい、とのこと。

デスクトップ向け最上位モデルになるであろう「Smack Over 2」。ボードに貼ってあったシールには「DX58SO2」という記述も

チップセットの構成は、おそらくリビジョンは変わっているだろうが、従来モデル同様のIntel X58 Express+ICH10R。マルチGPUはATI CrossFireとNVIDIA SLIにも対応。わかりやすいのはメモリスロットが従来の4本から3chに2枚ずつのDIMMを装着可能な6本へと増加し、対応メモリも1,333MHzへと引き上げられた。また、SATA 6Gbps(Marvell SE9128)とUSB 3.0(NEC μPD720200)の追加もポイントだ。さらにPCBボードは8層となっている。

バックパネルの青いポートがUSB 3.0。チップセットへの統合によるものではなく、別チップとしておなじみのNEC製だった。SATA 6.0も別チップでMarvell製

ほかSmack Over 2のボードをざっと見て気づくのは、電源回路とノースブリッジ周りのヒートシンクがヒートパイプ付きの豪華なものになっている点。DX58SOのヒートシンクは割りとシンプルなものだっただけに、目立つ変更だが、これは、オーバークロック用途を想定しかなり余裕を持った仕様にしている為なのだそうだ。当日はオーバークロックのデモも見せてもらったが、そこでは3.2GHz動作のCore i7-980Xを、空冷標準クーラーのまま4.2GHzまでOCさせ、ベンチマークソフトで負荷をかけても安定している様が披露された。

実機デモでは、Core i7-980Xを空冷標準クーラーのまま4.2GHzまで引き上げても安定動作。オーバークロック性能の高さを伺わせる

また、Intel純正マザーボードでは、Atomベースのものから、デスクトップ向けプロセッサがそのまま利用できるものまで、近年ではMini-ITX製品のラインナップ強化が著しいが、この分野は今後も積極的に製品を投入して行く考えであること。さらに将来に向けては、完成品PCではおなじみのAIO(オールインワン)向けマザーボードで標準化に取り組むなどし、この分野の市場も活性化させるつもりであるといった紹介があった。

Mini-ITXに今後も注力。ところで、スライドの一番下で「Hyperboot BIOS」という機能が紹介されているが、その名のとおりBIOS起動スピードを向上させるという新機能だ。ちなみに、これは元々、次世代のIntel 6シリーズ・チップセット向けに開発された機能だそうだが、DH57JGで先行搭載

オールインワン(AIO)や超薄型PCなど向けの小型マザーボードも新たな注力分野

まもなく開幕するIntel Developer Forum(IDF) 2010 San Franciscoでも、Sandy Bridge向けのものをはじめ、新型マザーボードが多数お目見えすることになるだろう。プロセッサだけでなく、マザーボードの進化にも注目しておきたい。