MVA液晶の仕組み

VA型液晶は液晶分子を寝かせていく制御となることから、液晶分子は、視線方向に対して視野角依存が発生してしまう。具体的にいうと、寝ている液晶分子を側面から見る視線と、正面から見る視線とでは出てくる光の量が変わってくるのだ。

一方向にしか倒れないVA型液晶

これは、一方向にしか倒れないVA型液晶だと起こりうる視野角依存なので、本質的に改善するためには、各液晶画素を、複数に分割して(Multi-Domain)、複数方向に倒れるように改良すればいい。こうして生まれたのがMVA(Multi-Domain VA)液晶になる。

複数方向に倒れるように改良

MVA液晶では、斜めから見ても、液晶分子の側面と正面の両方を見ることになり、出力光の量は平均化される。これで、視野角依存を大幅に低減できるという理屈だ。

ただ、この図の例では左右二方向に液晶分子を寝かせるマルチドメイン化を施したに過ぎず、左右から見たときは確かに出力光は平均化できているが、上下方向から見たときには十分な平均化が実現できていない。

そこで、さらにマルチドメイン化を進めようとするアイディアが台頭する。

サムスンのPVA液晶の仕組み

サムスンの「PVA液晶」は、マルチドメイン化を実現したMVA液晶になる。垂直配向する液晶を4方向に倒すために、独自の「斜め電界法」を考案し、この分野の筆頭となったのだ。

PVA液晶のキモは、液晶分子を挟み込む電極の配置にある。基本形のVA型液晶では互いに正面に向き合うような、相対する配置で電極をレイアウトするが、PVA液晶では互い違いにずらして電極を形成させる。このずらした電極間で電界を発生させると液晶分子が斜め方向に傾いていくことになる。

PVA液晶では、この斜め電界を発生させる電極を、液晶分子が4方向に傾くように独自のパターン(Patterned)で形成させることからPVA(Patterned-ITO VA)液晶という名称が付けられている。ITOとは、透明電極の材質名でIndium Tin Oxide(インジウム-スズ酸化物)の頭文字を取ったものだ。

斜め電界法を実現するPVA液晶

実際のPVA液晶の画素の拡大図。1-2-3-4は4方向に液晶が倒れることを表している

まとめると、PVA型液晶は、マルチドメイン化をさらに押し進めた改良型のVA型液晶であり、視野角の問題を徹底的に克服させたバージョンということができる。これは視線が左右方向にも、上下方向にも行くことになる大型サイズの液晶パネルには欠かせない技術である。

PVA型液晶は、VA型液晶の、黒表現に強い特性があるため、暗い部屋で見たときにも黒浮きが発生しにくい特徴をそのまま受け継いでいる。

液晶の場合、明部のダイナミックレンジは、光源の輝度強化でどうにでもなるので、ハイコントラストを実現するために重要となるのはやはり黒の締まり具合だ。その点、VA型液晶の特質を持つPVA型液晶は黒が本質的に黒いので、LEDバックライトと組み合わせた製品は特にコントラスト性能が凄い。

(トライゼット西川善司)