コンサルタントとしてのバランス感覚
コンサルタントのプロフェッショナルに必要なバランス感覚のポイントは以下の8項目となります。それぞれのポイントに対するバランス感覚を磨いてこそ、ソフトスキル力のアップにつながります。
1. 専門性
ビジネスモデルや業務知識、コンプライアンスや環境問題、SOAやDOAおよびUX理論など、さらにブレイクダウンしていくと、さまざまな専門分野があり、それらがプロフェッショナルには必要となります。
信頼されるコンサルタントとなるためには、専門分野の規模は別にして必ずこの専門性を持つ必要があります。しかし、現在のコンサルティングの課題を見てみると、単一事象に対して単一解があることは極めて少なく、さまざまな知識をバランス良く習得し、多面的に考えて解決していくことが求められています。そのためには専門分野だけでなく、その周辺知識やビジネス+ITなどの広範なスキルをバランス良く持つことが重要です。
スキルの習得には、さまざまな方法がありますが、まずは通勤電車の移動時間などを利用して、浅く広い知識の習得から始めることをお勧めします。できるだけ分かりやすく解説した雑誌系や図解の多い書物を用いると知識の土台が比較的短時間でできて、さらには本格的に学ぶ際の知識の苗床として役立ちます。(意外ですが、青年コミックにも有用なものが多く、これを用いて知識の習得を行うのがマル秘技です。
2. 契約履行至上主義
契約とはいったい何でしょうか。当たり前すぎて特に意識をしていない方もいらっしゃるかと思います。契約とは、異なる利益状況にあるものが、相互の利益を得るために結ばれるものです。コンサルティングの場合では、サービスの提供の対価として、お客様から報酬をいただいています。プロフェッショナルとしては当たり前のことですが、契約履行は最低条件として考えるべきです。
- お金をいただきクライアントにサービスを提供するのは当たり前のことですが、その際の契約内容は一番大事なものです。
- どのような契約においても、一度受けたものに対しては、履行するために全力を尽くすことが重要です。
- 行き過ぎた契約の履行はマイナスになる場合がありますので、バランス感覚をもってサービスを実施することが重要となります。契約内容(SOW*1)+αを行えればCSは高いものとなりますが、やり過ぎるとコストに影響を与えます。
- 納期遵守は特に重要となります。万が一、納期が遅れた場合の理由の明確化は、最も必要な誠意となります。
重要なことは、次の3点です。
a.自分のせいで遅れない
b.必ず責任者を処罰する
c.無謀な納期はバランスを崩すことにもなるので提案しない、受けない
- クライアントに断りもなく契約(SOW)にない動きはしない。もし、正しいと思ったときは、クライアントが納得するように説得する。その上でリスクを考えて説得しても無駄な場合は、責任の所在を明文化させる。
プロジェクト時には、メンバー内でSOWの読み合わせを行い徹底し、共通の認識を持つことが重要です。また、新しくプロジェクトに入るメンバーにも共通の認識を持たせ、メンバー全員で常に意識し、それを継続していくことが重要だと考えます。
3. トレードオフ(取捨選択)
ソリューションを提案する上でコンサルタントに一番必要なスキルであり、お客様自身にも備えておいていただきたいスキルです。考え方としては、何が一番クライアントにメリットがあり、自分(自社)にメリットがあるか、双方で矛盾する要素に対して優先順位づけを行い、バランス良くトレードオフすることです。
- すべての人が幸せになるトレードオフは存在しない。
- 捨てることができないことはプロジェクトリスクであり、プロジェクトを長期化させる原因です。特にSAPのようなパッケージ製品の場合のトレードオフは難しいものです。しかし、自分の業務理念や企業文化に対しての矛盾に遭遇しても、プロフェッショナルなコンサルタントとしてトレードオフをお客様に促すことは非常に重要です。
- どんなにきれいごとを言ってもプロダクトを見失った提案はすべきではありません。
- コンサルタントはかなわない夢を売る商売ではなく、現実的なソリューションを提案し、実現することが重要です。
4. 客観性(第三者的な視点)
コンサルタントとしての客観性とは、「第三者として」自分をコンサルティング現場に連れて行くことです。特にSAPコンサルタントとしてのポイントは次の通りです。
- 頑固は客観性がなくなった証拠、自分の考えに固執する場合は、一度客観的に考えて冷静になること。無意味なこだわりはチームワークを乱すことになるのでやめましょう。
- SAPプロダクトを愛し過ぎないことが重要。優秀なコンサルタントほど陥りやすい部分で、「プロダクトの機能を使い切らねば申しわけない」とこだわり過ぎるのは問題ですが、プロダクトは愛してほしい、これもバランス感覚。
- コンサルタントは必要以上に顧客と親しくならない。社内の人間関係も同じだと考えます。これは客観性の妨げになります。しかし、親しくならないと有益な情報は得られません。このバランスが一番難しいと思います。
- プロダクトに立脚したソリューション提案になるので、クライアントに対する無意味な共感はプロフェッショナルとしては問題だと思います。この部分は業務経験者や開発経験者が陥りやすい罠です。
5. 仮説設定力
科学や文明発展の最大の原動力です。ソリューション提案もリスクコントロールも最終的には稼働判定もこの仮説設定力が重要で、ここが優れているコンサルタントは仕事のできるコンサルタントと言われます。
業務スキルやプロダクトスキルやITスキル、そしてマネジメント力を統合し分析することができれば、それらを基にして多くの仮説設定をすることが重要です。特にバランス感覚のポイントとしては次の通りです。
- 多くの仮説設定をすることは重要だが、多過ぎる仮説設定は決定力にブレーキを掛けるので、公開する設定数はバランスを取ることが重要です。
- クライアントやメンバーが理解不能な範囲や空気の読めない仮説設定は避け、クライアントやメンバーが理解できる範囲内にとどめる。
また、間違った仮説を恥だと考えないでください。遠慮して腰の引けた仮説は誰も信じてくれません。5人いれば5通りの仮説があります。仮説で議論することを恐れずにチャレンジしてください。この能力を鍛える唯一の方法はいつでも考え続けることを習慣にすることです。
対象は仕事だけでなく、趣味や生活のすべてに対しても習慣にすることです。「私は頭がおかしくなったのか」と悩むくらいに妄想の範囲まで考え尽くすことを習慣にすると自然に仮説頭になります。そこにさまざまなスキルをミックスし、幅を広げていくことが重要です。
6. 自己鍛錬
コンサルタントなら常識ですが、キャリアプランを考えた自己鍛錬を必ず実践してください。さまざまな講座やミニMBAコースなど本格的な学習方法がたくさんあり、企業のタレントマネジメントでも推奨されているコースがあるほどです。足りないスキルを補う自己鍛錬は素晴らしいものですが、仕事、特にプロジェクトに支障が出てしまうと褒められるものではありません。この部分もやはりバランス感覚が大切だと思います。
7. プロ意識
"この契約で報酬をいただいているから、会社に貢献して給料をもらえる"と意識してほしいと思います。この考えをさまざまな側面でバランス良く維持できるのがプロ意識です。
- 仕事には、当たり前ですが責任と自信を持って挑んでください。
・どれだけコミットできるかがポイントで、そのためには知識、想像力そして勇気が重要です。ただし、コミットし過ぎも、一切コミットをしないのもいかがなものかと思います。これもバランス感覚です。
・"これで本当にお金がもらえるのか"と自問自答してください。ただし、"今日はお金はいりません"は、自己満足でしかありません。プロはどんなときにでもお金を取る、取れることがプロ意識です。
- 礼儀正しく尊敬されるべき行動を取るのもプロ意識です。
・挨拶ができないのはプロ失格です。特に、「仕事ができれば問題ない」と考えるのは大間違いです。礼節と言うと古くさく感じるかもしれませんが、経営者の方々には礼節を重んじる方が多く、プロどころか人間として認めてもらえない可能性もあります。
- 変化することを恐れず自身が変化し、変革を目指すのもプロ意識です。
・自分自身を変革できない者に業務改革やシステム改革は語れないと思います。
・仕事はデニーロ・アプローチ。つまり、ハリウッド俳優のロバート・デニーロが行っているような、作品によって太ったり痩せたり自身を変革していくアプローチが求められます。
8. 多面的な人間性
プロフェッショナルは7つの顔を持つと言われます。お客様や状況によって顔やスタンスを変えることで柔軟な多面性を持つことが重要で、そのための演技力が最大の財産となります。理想としてはプライベートと違う顔で仕事に臨むことです。多面性を持つといってもなかなか難しいのですが、日々の生活の中からトレーニングをしてみてください。
- 文化、スポーツ、趣味などさまざまなことに挑戦することで知識や経験値が増えて多面性が広がります。
- 演技力効果のためには、毎朝の表情チェックが有効です。笑う、怒る、泣く、無表情等の変化を付けた演技を洗面台の鏡で実施します。くれぐれも家族に心配されないような配慮をお忘れなく!
ただし、過剰な演技は信頼を失いかねないので注意してください。多面性こそバランス感覚が必要で、ただの気分屋や気むずかしい人と思われたらコンサルタントは務まりません。ポリシー(信念)を失った多面性は八方美人となり、誰からも好まれません。
最後にバランス感覚を備え持ったコンサルタントにとって、最も必要な考え方を示します。それは、どんなときでも"コンサルタントは最高のアクター"だと考えることです。