求められる、ビジネスとITをつなぐ"翻訳者"

SAP: 中長期計画を立て、今後はいろいろなビジネスを考えていかなければいけない立場だと思います。3年後、5年後、10年後を見据えたときに、どんな人材を育てていきたいとお考えですか。

松井氏: そのあたりを自分たちの頭で1から考えるのは大変です。お世辞ではなくSAPさんがすごいなと思うのは、「SOA時代になったら、ビジネス・プロセス・エキスパートが必要になります」などと、ITに関わる人々の役割やスキルの変化についてまで提言されています。とても参考になりますし重要視しています。

もともとソフトウェアは、ある機能を実現するためにその都度作っていたわけですが、生産性や品質向上のために構造化やオブジェクト化などが進みました。今ではそれが言語など技術の壁を乗り越えるようになり"サービス"と呼ばれるようになりました。昔から再利用性を高めようという考え方は変わらずにあり、段々とレベルが上がり、実用性・汎用性が高くなってきているのだと思います。それがいよいよ本格化するのが今後の流れです。

できるだけあるものを利用して、社内・社外含めて組み合わせて使うという時代に向かっていくことは間違いありません。そうなった時に、それぞれの部品を作る人たちだけでなく、その部品を必要な形にうまく組み合わせていくスキルが必要になってきます。そういう意味で、今まであまり概念のなかったビジネス・プロセス・エキスパートというような人たちが求められるようになります。

昔から言われてきたことかもしれませんが、お客様のビジネスとITの間をつなぐ"翻訳者"という立場の人たちがますます必要になってきているわけです。それを具体的なイメージとして体系的に見せていただけたということでは、非常に参考になっています。また、我々も会社の中で育てていく人材像のイメージとして、そういった姿を考えています。

SAP: 今後は、ビジネス・プロセス・エキスパートという方向にも、人を投入していきたいというお考えですか。

松井氏: 我々の会社は、食品や消費財業界のお客様を対象にしていますが、もともと情報システム子会社という立場でもあり、傾向としてはユーザー寄りのところが強くあります。お客様とお話をして、ITに落とし込んでいくという意味では、まさにSAPさんが言うビジネス・プロセス・エキスパートのやるべき仕事です。我々の会社の持っているDNAを含めて考えると、そこはとても重要で、今後ともそうした人材を育成していかなければいけないと思っています。

JSUGは他社の事例や教育機会の宝庫

SAP: JSUGでは、2008年からテクニカル部会長を担当し、今年から常任理事にもなられました。そこでの人材育成や取り組みについてのご意見はありますか。

松井氏: テクニカル部会にはSAP Net WeaverRの機能を研究するワーキングループ(旧Javaスタック研究WG)があります。ABAPのシステム管理の機能をJavaに置き換えたらどうなるのだろうか、という企画を2年くらい前からやっていて、昨年度からはエデュケーションさんにご協力をいただいています。

システム管理者の目から見て、ABAPの環境というのは、非常に安定していて、しっかりしているシステムだと思っています。それに比べて、Javaの世界というのは、我々の勉強不足という面もあるかもしれませんが、まだまだ枯れていません。そこで、研究会ではABAPシステムでできる、たとえば変更管理やパフォーマンス管理などのシステム管理のタスクを、Javaシステムに置き換えたらどうなるか、ということを勉強しています。そのほうが1からJavaのシステム管理を学ぶよりはいいだろうということで始めたわけです。

その手始めとして、エデュケーションの方に講師の派遣等ご協力いただき、ワーキングループ主催のシステム管理概要セミナーを数回にわたって開催しました。より詳細まで学びたい方のために、該当する通常のトレーニングコースの紹介を織り交ぜてすすめていただいたのですが、結構好評で、かなりたくさんの方に参加いただきました。

SAP: JSUGとエデュケーションというのは補完関係にあると思います。JSUGはユーザーの皆様がお互いに話し合うワークショップ的なもので、そこにはいろいろな人が参加しています。5,000名くらい個人の会員がいらっしゃいますから、何かを研究するといってもある程度スタート時にレベルを合わせないといけません。そういう時の教育を担うのが、エデュケーションだと思っています。

松井氏: エデュケーションのセミナーは、しっかりした目的があってそれを学ぶために行きます。JSUGは、ヒントをもらうために行きます。JSUGは、いろいろな人の集まりですから、いろいろな情報があります。特に、会社として、自分としてこんなことをやってみようと思った時のヒントが探せます。

ですから、JSUGで他社の事例やどんなことをしているかを確かめた上で、具体的な内容についてはエデュケーションで学ぶ。そういう立ち位置の違いがあると思います。JSUGでは、表には見えてこない苦労談など、ユーザー同士のつながりで裏話的なことも聞けるのがいいところですね。

SAP: 最近では、外部に出していた保守などを、自社のIT部門に取り込むなど"内製化"が進んでいます。また、せっかく投資をして導入したのだから、今まできちんと使えてなかったものを、しっかりと使っていこうという"定着化"も進んでいます。内製化や定着化については、どのようなご意見をお持ちですか。

松井氏: JSUG全体では、せっかくパッケージを入れたのだから、とことん使い倒そうという流れはありますね。

ただ、JSUGでいろいろな企業を見て感じるのは、内製化や定着化も大事ですが、新たなことにもチャレンジしていかなければいけないのではないかということです。自社で情報システム部門を抱えていながら保守中心になってしまっている企業もありますし、逆に新たなことに積極的にチャレンジしている企業もあります。チャレンジしないままずっと同じことをやっていると、いつの間にか陳腐化してしまうということにもなりかねません。そういった本質的な議論もJSUGの中でしていったほうがいいのかもしれないと考えているところです。

常に「いかにお客様の信頼を得るか」を考える

SAP: 最後に、長く仕事をされてきた中で、何かことを成す時に、心に秘め、これだけは絶対に譲れないと、大事にして取り組んでいるものがあったら教えてください。

松井氏: 仕事で言えば、お客様です。お客様の信頼をいかに得るかということは、常に一番大事に考えています。仕事の面だけでなくさまざまな面があると思いますが、お客様から信頼を得て、次に何かあったときには、また必ず声をかけてもらえるようになりたいと思っていますし、そうならないといけないと思っています。

SE時代を振り返ると、大変なプロジェクトも経験しました。しかし、大変な思いをして、お客様と一緒に頑張った結果というのは、必ず後で返ってきます。「あの時は本当に頑張ってくれたよね。何かあったらまた仕事を頼むよ」と言っていただければうれしいですよね。仕事は会社同士の関係ですが、ベースには個人同士の関係があります。ですから、自分自身がどのようにしてお客様に信用してもらえるか。失敗をする時もありますが、それでも最後にしっかりとリカバリーするなど、最後まで信頼を得ていくということが重要なのではないかと思っています。

※ 本稿は、SAPジャパン発行の『SAP CERTIFICATION VOL.8』に掲載された記事『JSUG LIVE VOICE 次世代の礎に…』を一部加筆/編集のうえ転載したものです。