ASUSTeKが発売した「U30Jc」は、13.3型液晶を持つ約2.1kgのノートPCだ。NVIDIAが2月に発表したグラフィックス切り替え機能「Optimus Technology」を搭載することで、CPU内蔵GPUと追加搭載されているGeForceとを違和感なく切り替えて利用できる。Optimus Technologyを採用した日本初のノートPCとしても注目される本製品をチェックしていこう。

ASUSTeK「U30Jc」

主な仕様 [CPU] Intel Core i5-430M(2.26GHz) [チップセット] Intel HM55 Express [メモリ] 2GB [HDD] 320GB [グラフィックス] CPU内蔵、GeForce 310M(512MB) [ディスプレイ] 13.3型ワイドTFTカラー液晶LEDバックライト(1366×768ドット) [バッテリ駆動時間] 約9.1時間 [サイズ/重量] W328×D238×H20.0~29.9mm/約2.1kg [無線LAN] IEEE802.11b/g/n [OS] Windows 7 Home Premium 64bit 日本語版 [参考価格] 99,800円

NVIDIAのOptimus Technologyとは?

ノートPCにおいて高性能と低消費電力(長バッテリ駆動時間)の両立は大きな課題となっている。一般的に、同じ設計で同じ世代のパーツならば、性能が高いほど、消費電力は増える。異なるメーカーの場合は一概には言えないが、昨今の例でいえば、IntelのチップセットやCPUに内蔵されたグラフィックス機能ではなく、追加のGPUを利用した場合は3Dパフォーマンスが高い代わりに消費電力も高い。

性能と消費電力がトレードオフの関係にあるだけに、バッテリ駆動時間が求められるモバイルPCではチップセットやCPUに内蔵されたグラフィックスを用い、3D性能を意識した製品の場合はバッテリ駆動時間を犠牲していることが多い。

これに対する一つの解は、2006年に発売されたVAIO SZが示した。それが、利用シーンに応じてGPUを切り替えるという使い方だ。VAIO SZはキーボードの奥にGPU切り替えスイッチを備えており、チップセット内蔵グラフィックスで駆動させるか、追加GPUで駆動させるかを、ユーザが任意に選ぶことができた。ただし、GPUを切り替えるさいに必ず再起動が必要になるという手間がある。

その後、インテルがノートPCをCentrino 2へアップデートしたタイミングで、スイッチャブル・グラフィックスというテクノロジを追加。チップセット内蔵グラフィックスと追加GPUをソフトウェア的に切り替えることができるようになり、再起動も不要となった。

これにより実用性はかなり増したが、GPUの切り替えはユーザが自分でGPUを選択するが、電源状態(ACアダプタ駆動かバッテリ駆動か)のみがトリガとなっており基本的には手動での切り替えが必要。GPUに依存するアプリケーションについては再起動が必要になることもある。

さらに、ハードウェア面では、各GPUからディスプレイへ出力する切り替え回路(MUX)を、出力先ごと(内蔵液晶や外付け用のD-Sub15ピン、DVI、HDMIなど)に用意しなければならない。この実装はベンダーの回路設計の手間や、コストアップを生んでしまう。切り替え時に一瞬ブラックアウトするのを気にするユーザもいるだろう。

段階を踏んで進化してきたGPU切り替え技術であるが、この次の世代のGPU切り替え技術としてNVIDIAが発表したのが「Optimus Technology」である。その仕組みとメリットは次のとおりだ。

まず、ハードウェア的な処理としては、内蔵GPUもNVIDIA製GPUもディスプレイへの出力は、すべて内蔵グラフィックスを通して出力されるのが特徴となる。NVIDIA製GPUは、処理結果を内蔵GPUのフレームバッファへ転送するコピーエンジンという機構を持っており、このコピーエンジンがGPU処理とは非同期にデータを内蔵GPUのフレームバッファへ転送する。コピーエンジンによる転送時間とGPU処理では前者のほうが短時間で済むため、この仕組みによる性能へのインパクトはないとされる。

この仕組みによりディスプレイ出力が内蔵GPUからの出力に一本化されることで、ハードウェアの設計は内蔵GPUのみを使用するシステムと同一でよいことになる。この点でのコストアップや回路設計の複雑さからは解放されるわけである。

NVIDIA製GPUもディスプレイへの出力は内蔵GPUのフレームバッファとディスプレイコントローラを介して行う。これにより切り替え時のブラックアウトや、ハードウェア設計の複雑さから解放される

NVIDIA製GPUから内蔵GPUのフレームバッファへの転送は、GPU処理と非同期で動作可能なコピーエンジンが行うので、データの転送に伴う待ち時間を回避することができる

加えて、ソフトウェア面でも利便性を高めている。従来のGPU切り替えが手動による何らかの手順が必要であったのに対し、Optimus Technologyはドライバレベルでアプリケーションを判別し、どちらのGPUで実行するかを自動的に切り替えることができるのだ。例えば、3DゲームやCUDAアプリケーションなどを利用するさいにはNVIDIA製GPU側、オフィスアプリケーションを利用するさいには内蔵GPU側で実行するといったことを、自動的に行うことができる。

極めてソフトウェアに近いレイヤーで処理が行われており、これまでのように切り替え時にブラックアウトすることもない。内蔵GPUのフレームバッファを介して出力するという仕組みであるため、内蔵GPUは常時動作しているように思われるかも知れないが、GPUコア部は省電力モードへ入り、フレームバッファとディスプレイ出力周りの回路のみが動作するので、電力はかなり抑制される。そもそも、NVIDIA製GPUを使うシチュエーションというのは、電力よりも性能を重視することが多いはずで、多少の電力増で利便性が得られるならば納得できるのではないだろうか。