デジタルハリウッド大学は、守屋健太郎監督をゲストに迎え、同校の学生限定イベント「シーサイドモーテル 試写会&メイキングセミナー」を開催した。

自分なりの「群像劇」を描くために

守屋健太郎監督

守屋監督は1968年、東京都出身。1992年テレビマンユニオンに参加、これまでにドラマやMV、CMなどの演出を多数行っており、近作では、2009年のGReeeeN「刹那」MVなどを手がけている。岡田ユキオ氏の漫画『MOTEL』を原作にした本作は、2005年の映画『スクールデイズ』に続き、2作目の長編映画となる。

日々制作を行う中で「いつかは群像劇を」との思いを温めていた守屋監督。今作に取り組むきっかけになったのは、2008年に出会った漫画『MOTEL』の存在だった。しかも、監督自ら映像会社や代理店へと交渉に出向いたという。「漫画『MOTEL』単行本の帯に『シーサイドモーテルなんて言いながら海なんてどこにもないじゃん』というセリフがあって、なんてしゃれたアメリカ的ユーモアがある作品だろうとグッときたんです。もうそれだけでやってみたくなりました(笑)」

本作の脚本は、共同担当の柿本流氏と約30回もの手直しを行い、練り上げたもの。そんな守屋監督が物語の描写に比重を置くようになったのは、30代になってからだそう。100年後に見ても色褪せない人間物語を描きたいとの気持ちが、今作に織り込まれている。「とにかく、いい設計図となるよう心がけました。原作者の方からも『自由にどうぞ』と言っていただいたので、例えば、原作のキャンディは若くて明るい子ですが、人間の影を描くために、あえて三十路前で落ち目の影がある子にしたりと、キャラクター設定も大きく変えています」

映画『シーサイドモーテル』

本作は、山奥のさびれたモーテル「シーサイド」に偶然集まった、インチキ美容クリームのセールスマン・亀田(生田斗真)やコールガール・キャンディ(麻生久美子) をはじめとする、一癖もふた癖もある男女11人の人生を賭けた騙しあいと運命の一夜を描いた作品

ひと癖もふた癖もあるキャラクターが多く登場し、コミカルさが必要な「心の声」などを利用するなど、難しい場面も多かったが、表現力に定評ある俳優をキャスティングすることで作品は成立した。これまでPVやCMを多く手がけた経験から、普段なら事前にカット割を決め込む守屋監督も、彼らの演技力によって新たな発見をしたという。「例えば、クランクイン直後に古田新太さんのシーンの撮影があったのですが、セリフの言い回しやイントネーションで面白さを足してくれるんです。豊かな表情や動きで自分のアイデアよりずっと良いものになるので、そこを活かさないともったいないなと。そこでまず彼らに動いてもらい、改めてカットを割り直す方法に変えたんです。ライブ感を大事にしながらいい部分を切り取ろうと思ったのは、自分でも新しい感覚でしたね」

ものづくりには制限がつきもの

ホテルの看板のイルミネーションはCGで表現したとのこと

本作の映像を見ると、カット数が非常に多いことがわかる。だが撮影日数は通常の映画作品の約半分、これはスタッフとのチームワークが可能にしたことだという。美術面も例外ではない。本作では、4つの部屋のなかで起こった出来事を描いているのだが、撮影は1部屋分のセットを順に塗り替えて作ったものなのだという。

「人材・時間・予算の制約の中で、どうすれば自分の表現したいものを実現できるかと考えて分配することが重要です。その結果で無理が生じても、みんなで考えればなんとかなりますから。でもそうするためには、自分のこだわりをみんなに伝えておくことが大事なんです。例えば今回、海外ロケの余裕はなかったのですが、どうしても『夢のシーサイド』と思えるような美しい海の映像を入れたかった。そこで相談したところ、少人数ロケにすることで実現できたんです」

鑑賞後は、103分もある群像劇とは思えないほど、明快で爽快な印象が残る本作。実はそれこそが、本作で監督がこだわったポイントだ。「本作にはラブストーリーやお色気、コメディ、サスペンスと多くの要素が盛り込まれています。そこで作品が散漫にならないよう、どの話にもぐっと引き込めるようテンポ感にこだわりました。場面を端折ったり、マルチ画面を使ったのもそのためです。僕自身、映画を観る際、上映中に自分が素に戻る瞬間があるかどうかを気にします。映画が描く非日常に対して最後まで冷めずにのめり込めるかどうかが大切なんです。だからこそ、テンポにこだわることで、あり得ない話にも『どっぷりはまれて楽しかった』と感じてもらえれば、と思ったんです」

映画制作中の風景

撮影制作の日々を、お祭りみたいで楽しかったと語る守屋監督。CMなどの方が資金状況はいいと言いながらも、映画制作に取り組めたことの喜びや嬉しさがトークの端々から伝わってくる。では、そんな映画製作を束ねる"監督"に重要な要素は何だと考えているのか。「まず自分のやりたいことがあること。そして、仲間を引き込みつつ、協力してほしい気持ちをいろんな人に訴え続けながら、何を描きたいのかみんなに伝えること。あとは映像が好きなことですね。それがないとこの仕事は続かないですから」

イベントの最後に、学生に最後のシーンの感想について、とある質問を投げかけた守屋監督。バラけた回答を見ながら「これが映画の面白さなんですよね。テレビは答えを明快に表現する傾向があるけれど、映画は答えがない表現でも経験を元に想像してもらえる面白さがある」と、感慨深げに言葉を継いでいた。映画に対する愛が感じられる、有意義なメイキングセミナーとなった。

映画『シーサイドモーテル』は、6月5日(土)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー。

(C)2010『シーサイドモーテル』製作委員会