米Googleは19日(現地時間)、米カリフォルニア州サンフランシスコで開催されている開発者会議のGoogle I/OにおいてVP8コーデックのオープンソース化を発表し、「WebM Project」として公開した。VP8はロイヤリティフリーのBSD型ライセンスで提供され、HTML5のVideoタグ論争に大きな影響を与えることになるとみられる。すでにGoogle Chrome、Mozilla Firefox、Opera、Adobe Flashがサポートを発表したほか、YouTubeのHTML5ページでのWebMによる動画配信も対応が表明されている。このほか、MicrosoftはIE9でのH.264とVP8の両サポートについても言及している。
VP8は昨年2009年8月にGoogleが買収したOn2 Technologiesが開発した動画コーデック。高画質・高圧縮率なのが特徴で、これが規格分裂状態にあるWebブラウザでのHTML5のVideoタグ論争に一石を投じることになるのではと期待されていた。現在各Webブラウザでは、Videoタグにおける再生可能なコーデックとしてH.264とOgg Theoraのいずれか一方、あるいは両方をサポートするといった具合で、全ブラウザを通して統一的に利用可能なコーデックが存在しない。
これは特許使用料の発生するH.264のライセンス問題に起因しており、オープンソース系のFirefoxやOperaなどはH.264の採用を拒否し、Theoraのみを採用している。一方で、Theoraの処理能力はH.264と比べて劣るといった問題もあり、Apple SafariなどのブラウザはH.264のみのサポートにとどまっている。Theoraはオープンソースであり、かつてOn2が開発したVP3コーデックが原型になっている。GoogleがOn2を買収したときに、より高性能なVP8のオープンソース化が期待されたのもそのためで、一部報道で今回のGoogle I/OでのVP8のオープンソース化が正式発表されるとの予測がなされていた。
プロジェクトに含まれるのはVP8コーデックのほか、音声コーデックとしてVorbis、メディアコンテナとしてMatroskaといった3種類のフォーマットが含まれている。またツールとしてFFmpegのパッチ、DirectShowフィルタ、VP8 SDKの3種類が同時公開されており、GStreamerプラグインについては間もなく提供予定とされている。これらの組み合わせにより、Windows上でVP8環境をすぐに構築することができる。各ツールのダウンロードや設定の詳細などはWebMのページを参照のこと。
なお今回最も重要となるのが各パートナーのWebMサポートだ。Google I/Oのキーノート会場にはMozilla、Opera、Adobeの代表者が現れ、それぞれFirefox、Opera、FlashでのWebM対応をアピールしていた。またGoogleもChromeとYouTubeでのWebM対応を発表している。
それぞれのWebブラウザやサービスでのWebM対応状況や対応製品のダウンロードについては、上記リンクにある説明を参照してほしい。このほか、WebM Projectでは専用ブログを開設し、各パートナーのサポート状況を紹介している。
こうした一連の発表を受け、各パートナーもそれぞれVP8の対応状況について報告している。例えばARMでは、VP8がCortex-A/v7AのNEON SIMDエンジンやARM11に最適化されていることを報告している。ARM Cortex-A8はSnapdragonなど携帯や組み込み機器向けプロセッサで幅広く利用されており、特にモバイル機器での動画再生などで大きな役割を果たすとみられる。また注目すべきはMicrosoftで、同社IEチームのDean Hachamovitch氏がBlogの中で、もうすぐ正式リリースが行われるIE9でのVP8サポートについて触れている。IE9では現在H.264のみのサポートを表明しているが、Hachamovitch氏によればWindowsにVP8コーデックをインストールすることで、IE9でもVP8が利用できるようになる見込みだという。
以上を踏まえて、現在の各主要ブラウザにおけるHTML5の動画コーデックのサポート状況は下記のようになる。
主要ブラウザにおけるHTML5の動画コーデックサポート状況 | |||
ブラウザ名 | H.264 | Ogg Theora | VP8 |
---|---|---|---|
○ | ○ | ○ | |
× | ○ | ○ | |
○ | × | ○ | |
× | ○ | ○ | |
○ | × | ? |
現状で動向が不明なのはAppleのSafariのみだ。すでに他の主要ブラウザがすべてVP8サポートで固まったため、原稿執筆時点で孤立状態にあるのはSafariのみとなっている。だが、VP8の動画再生自体はFlashがサポートするため、Mac OS Xおよびその上で動作するSafariで同コーデックでエンコードされた動画を見ることは可能だ。このHTML5の動画コーデック論争は数日中に大きく進展すると考えられるため、ぜひその動向に注目してほしい。