シャープは4月12日、従来の大型3D液晶ディスプレイに比べ、高色表現力、高コントラスト、高輝度などを実現した3D液晶ディスプレイ(3D-LCD)を開発したことを発表した。

シャープ 代表取締役兼副社長執行役員 AVシステム事業統括の松本雅史氏

3Dテレビ市場ついて同社は、「2011年以降に本格立ち上がりを見込んでおり、調査会社の予測では2012年には1,000万台市場へと成長する」(シャープ 代表取締役兼副社長執行役員 AVシステム事業統括の松本雅史氏)との見方を示し、「液晶のシャープが満を持して大型3D-LCDを投入する」(同)ことを宣言した。

従来、3D-LCDには2DのLCDに比べ、暗くて見にくいという欠点があった。シャープでは、「映像媒体の多様化に伴い、高画質化が進むことは確実で、それに3Dの臨場感を足し合わせる必要があることを考えると、2Dと同等の高画質化が3Dにも要求される」(同)との考えの下、自社の保有する独自液晶技術を組み合わせることで、3D-LCDにおける高解像度、高色表現力、高コントラスト、高輝度化などを実現したという。

シャープ 常務執行役員 研究開発本部長の水嶋繁光氏

同社では2010年4月2日に中小型3D-LCD技術を発表しているが、そちらは個人で3D画像を楽しむことを前提にした視差バリア方式を採用。今回の大型3D-LCDでは、「視差バリア方式では3Dとして見える角度などに限度があり、大勢で見るのには適さない」(同社常務執行役員 研究開発本部長の水嶋繁光氏)とのことで、液晶シャッターメガネを用いることで右眼用映像と左眼用映像を見分ける「アクティブシャッターメガネ方式」を採用したという。

ただし、前述のとおり、従来のアクティブシャッター方式を用いた3D-LCDでは、明るさの不足やクロストークの発生、映像の鮮やかさの低下などの問題があった。「我々の技術ですべての問題が解決されたか、というとまだまだユーザーからはさらに高い要求が来るだろうが、現状では世界最高峰の3D-LCD技術ができたと確信している」(同)と自信を覗かせており、これらの問題を高次元で解決したことを強調する。

3D表示方式各種と実際に展示された3D-LCD(60V型)とメガネ

特に視聴の最大のポイントとなる「明るさ」だが、従来の3D-LCDでは2D表示の輝度を100%とした場合、3D-LCDのパネル側で発光期間や応答速度への対策により輝度が減少するのに加え、メガネ側での透過率の問題や左右の映像の時分割、反射などのロスにより眼に届く輝度は10%程度まで低減するという。また、自発光デバイスであるPDPもメガネを利用する場合は、メガネ側のロスなどの問題は同様であり、やはり眼に届く輝度は10%程度まで低減されることとなる。

同社では、メガネをかけたときにどの程度の輝度があれば周囲に負けない程度の明るさとなるかという考えに基づき、偏光板の付いたメガネをかけた場合の周囲の明るさを算出、計算方式としては"偏光板透過率(40%)"×"左右映像時分割(50%)"×"メガネ反射などのロス(90%)"とし、結果18%にまで下がるというということで、メガネがない2D表示の18%以上の輝度(500cd/m2の2D-LCDの場合は、×18%で90cd/m2)が3D表示におけるメガネを通した明るさとして感じられれば問題ないとの結果を出した。

2Dに比べて3Dはさまざまな要因から輝度が低下する。これに対して同社ではどの程度の輝度が眼に届けば2Dの時と同じ程度の明るさを得られるかを算出した

また、逆側の眼の映像が見えることで2重像(クロストーク)が発生してしまう問題については、バックライトの応答性能を考察する必要があるとし、明るさを犠牲にしない低クロストーク化に向けた液晶の応答性能を一般的な全面点灯方式、上下2分割スキャン点灯、バックライトの点灯範囲を細かく分割した多分割スキャン点灯の3方式でそれぞれ算出。全面点灯では1ms以下、上下2分割では2ms、多分割では4ms以下を実現すれば問題ないという結果を導き出した。なお、自発光であり応答速度が早いとされるPDPについては、「発光応答(ON)は数μsと非常に高速ながら、OFF時は6ms程度、学会レベルでも3msで、残光を残すとクロストークが発生するため、消えるまで待ってから発光をすれば輝度が低下するトレードオフの関係にある」(同)ことを指摘、輝度を維持しながら高速応答を実現するのには適さないとした。

バックライト方式が変わることで応答速度が変化、それに伴い、クロストークの発生を抑えるための応答性能の速度が変わってくる

動画
各バックライト方式によるクロストーク発生のデモ(wmv形式 2.84MB 9秒)
実際の上下2分割スキャニングBLとサイドマウントスキャニングLED-BLの比較デモ(wmv形式 2.82MB 9秒)

さらに、「映像の鮮やかさが悪ければ奥行き感や鮮鋭感が悪くなる」(同)ということで、ディスプレイの描画性能の基礎能力向上が求められるとする。

こうした課題に対応するため、既存の「UV2A技術」のほか、RGBにYを加えて色再現性を向上させることが可能となった「4原色技術」、開口率を向上させ高輝度な3D表現を実現する「FRED(Frame Rate Enhanced Driving)技術」、「サイドマウントスキャニングLEDバックライト(BL)技術」の4技術を導入。この4技術を活用することにより輝度は従来比で1.8倍となるメガネを通した後で100cd/m2以上を実現した。

4つの独自技術により高輝度、低クロストーク、3D画像の鮮鋭化を実現した

加えてUV2A技術による2倍速応答およびサイドマウントスキャニングLED-BLによるモジュールの薄型化と低クロストーク化の実現。およびUV2Aによる従来比1.6倍の5000:1のコントラストと、4原色による色再現範囲同1.1倍を組み合わせた鮮鋭な3D画像の実現が施された。

UV2A技術による高開口率化、応答速度の向上、高コントラスト比を実現

同社ではUV2Aと4原色を組み合わせるにあたり、「画素の設計方式を見直し、それぞれの色に応じた最適な面積を算出、透過率の20%向上と色再現性1.1倍以上を達成した」(同)とする。

RGBにYを加えた4原色とすることで、イエローの領域はもとよりシアン(ブルーグリーン)領域の色再現性を向上、全体的に高い再現性を実現した

またFRED技術は、従来の4倍速(240Hz)駆動では、120Hzを2本駆動させることで240Hz化していたが、信号線が2本になることから、表示部が減るほか、ドライバ数が倍になるという問題を解決した技術で、詳細は明らかにしていないが、TFTへの信号入力方法を従来とは異なる方法にすることで、従来の8ビットドライバICやTFTのまま、1本の信号線で240Hz駆動を実現でき、開口率も10%向上させることが可能となるとしている。

1本の信号配線で240Hz駆動を実現できるFRED技術によりドライバICの数の削減と開口率の向上、低消費電力化などが実現された

なお、同社では同3D-LCDを搭載した液晶テレビについては、「2010年5月に改めて発表を行い、日本を始め世界各地域に向けた展開をしていく計画」(松本氏)としており、明るいということを差別化戦略として打ち出していくことで、「3D液晶時代を切り開くのはシャープ」(同)という認識を広く社会にアピールしていくことを強調している。

今回の技術を活用して製造された60V型のパネル。メガネ越しの輝度は100cd/m2でクロストーク率は2.1%、メガネ越しコントラストは5500:1となっている

会場では先日発表された視差バリア方式を活用した10.6型のe-Books向け3D-LCDのデモ展示も行われていた