WebsiteSparkの導入に最適だった開発体制

Web制作や開発業務を主なビジネスとする従業員が25人以下の企業を対象に、Web制作や開発に必要なマイクロソフトの40万円相当のソフトウェア、ソリューション、および技術情報・サポートなどを3年間無償で提供するという贅沢な支援プログラム「WebsiteSpark」。このプログラムが始まって6カ月。これまでに加盟したWeb制作会社は、なぜこのプログラムに参加したのだろうか? このプログラムに参加することで、Web制作会社は実際のところ具体的にどのようなメリットを得るのだろうか? WebsiteSparkの特典を活用しているWeb制作会社の生の声から、WebsiteSparkプログラムの実像に迫る。

最高技術責任者アーキテクトの菊池和彦氏(写真左)、eコマース事業部エンジニアの竹原貴司氏(写真右)

今回、東京都渋谷区に拠点を置くクロスワープを取材した。WebsiteSparkへの参加経緯、プログラムで提供されたツールの活用などについて、最高技術責任者アーキテクトの菊池和彦氏およびeコマース事業部エンジニアの竹原貴司氏にお話を伺った。

クロスワープはWeb関連の開発事業を始めて8年、22人のスタッフが在籍するSaaS/ASP事業会社である。Web制作に携わる開発者の数は22名中7名となっており、Eコマースとコンテンツセキュリティの事業を事業の柱としている。Eコマース事業では、単にサイトの開発だけでなく、サイトの運営から物流との連携まで一括で請け負う体制を整えているとのこと。通常Eコマースサイトの運用は、Web上で注文処理までを担当するが、クロスワープでは物流倉庫との在庫連携、出荷の指示から配達完了の情報取得までをワンストップで行っている。

社内の開発体制としては、一部「Visual Studio 2008」への開発環境の移行が出来ていなかったが、WebsiteSparkを導入することで、社内の開発体制をVisual Studio 2008に統一することが出来たという。クロスワープでは、自社でASP.NETベースの独自CMSを開発しており、それをベースにカスタマイズしてクライアントに提供することでEコマースの推進を行なっている。

ASP.NETベースの独自CMSでDREAMS COME TRUEのオフィシャルショッピングサイト「DCTSTORE」を構築

クロスワープのWebサイト。様々な事例が掲載されている

クロスワープの最近の制作事例のひとつに、2009年10月にリリースされたDREAMS COME TRUEのオフィシャルショッピングサイト「DCTSTORE」がある。このサイトもやはりASP.NETベースで開発した独自CMSで構築されている。なお、DCTSTOREのプロデュース、サイトデザインはメディアスパイダーが手掛けているとのこと。

「ASP.NETを使用する場合は、各ページが.aspx形式で生成されます。しかし、今回はページのレンダリング部分を独自にカスタマイズした上に、URLルーティングの処理を追加しています」(菊池氏)

さらに、レンダリングエンジンをカスタマイズした背景として、竹原氏は「表示部分のコンテンツ情報をデータベースに格納することで、より運営サイド側で自由にサイトに表示するコンテンツをコントロール出来るようにするのが目的でした」と語った。Eコマースサイトは、効果をあげるためにPDCAサイクルを積極的にまわすことが多く、HTML部分はなるべくデザイナーレベルで変更が可能なようにする必要がある。

Eコマースサイトを作るにはPHPやPerlなどのスクリプト言語やJavaなどの選択肢も考えられるが、クロスワープでは、サイト構築にどうしてASP.NETを選択したのだろうか?

「弊社では、製品のクオリティやテストの最後の段階の工数を考慮するとコンパイルできることが重要な要素と考えています。そうなるとJavaかC#かという選択肢になるのですが、豊富な機能と将来の発展性に期待してC#、すなわちASP.NETベースの開発を選択しました。さらにASP.NETではWebサーバにIISが使用できることも理由のひとつです」(菊池氏)

DREAMS COME TRUEのオフィシャルショッピングサイトのサーバ構成

続いてこのサイトのサーバ構成について伺ってみた。

「サーバのOSはWindows Server 2008と2003が使用されています。サーバの構成は、データベースサーバが2台、フロント側を担当するCMS用サーバが2台、ショッピングカートを担当するサーバが2台の計6台構成となっています。データベースサーバがWindows Server 2008を使用し、CMSサーバはWindows Server 2008R2を使用しています。それぞれ64bit版となります。ショッピングカートのサーバはWindows Server 2003の32bit版です」(菊池氏)

DCTSTOREのサーバ構成

何故、ショッピングカートのサーバだけWindows Server 2003なのだろう?

クロスワープによると「ショッピングカートはもともとあった物流側のシステムとの連携もあり、一度に移行することが難しかったため、今回はWindows Server 2003が残ってしまっていますが、将来的には64bitに統一していきたいと考えています」ということだ。既存のシステムも活用しつつ、新たに作成するエリアには最新の技術を適用していくという働きかけは、特にスピードを求められるWebシステムには重要なポイントといえるだろう。

WebsiteSpark導入後の変化

WebsiteSparkで提供されているソフトウェアはサブスクリプションで提供されているので、常に最新の開発環境を容易に整えられることが大きなメリット」と菊池氏は語った。4月に発売される「Visual Studio 2010」に関しても、WebsiteSparkから提供されるタイミングを心待ちにしているようだ。既にASP.NETを導入していたクロスワープは、既存の開発環境から新たなバージョンを用いた開発環境を比較的整えやすかったという部分もあるだろう。その他には、WebsiteSpark導入は、クロスワープにとってどのようなメリットがあったのだろうか。

「3年後に100米ドルを支払うという条件がWebsiteSparkにはありますが、ソフトウェアのライセンス料金を抜きにしても、豊富なドキュメントを利用出来るだけというだけで、かなりの価値があります。また、マイクロソフトはサポート体制がしっかりしており、不具合に関しても1週間ほどの調査で原因が判明するため、サポートも重宝しています」(菊池氏)

実際クロスワープも、プロジェクト中に不具合が起きた際にはマイクロソフトのサポートを利用しているとのことだ。WebsiteSparkでも2回分の「インシデント サポート」が無償提供されているので、そちらも旨く活用できると良いだろう。

今後新にWindows系の開発環境や制作環境を整えていきたいと考えている会社に限らず、既存環境からの移行を検証したいと考えている小規模なWeb開発会社にとっても、WebsiteSparkはかなり有効なプログラムだといえるだろう。WebsiteSparkに参加することで、最新テクノロジーの採用を、低コスト(というか、実情はほとんどノーコスト)で積極的に進めていくことが可能になるはずだ。マイコミジャーナルでは、マイクロソフトのWeb制作会社支援プログラムWebsiteSparkの申し込みを受け付けている。この機会にWebsiteSparkに参加してみてはいかがだろうか?

インタビュー撮影:石井健