Anup Murarka氏

普及率95%というデスクトップでの「Flash Platform」成功を土台に、米Adobe Systemsは次のプラットフォームであるモバイルを狙っている。だが、モバイルで大きな存在である米AppleはiPhone/iPadで、Flashサポートを拒否するなど、障害もある。

Flashの次期版「Flash Player 10.1」のリリースが間近に迫る2月、スペイン・バルセロナで開催されたMobile World Congress 2010でAdobeのプラットフォーム事業部テクノロジー戦略&パートナー開発担当ディレクター Anup Murarka氏にモバイルプラットフォームの取り組みを中心に話を聞いた。

--Adobeのモバイル戦略の要となる「Open Screen Project(OSP)」の現状について教えてください。

OSPを2008年に発表して以来、1年半が経過しました。現在、参加者は約70社となりました。

この3カ月で、Symbian Foundation、FreeScale、Visioら4社が加わりました。注目すべきトレンドは、NickelodeonやPBSなどのコンテンツ企業の参加が増えていることです。OSPは単なる技術プログラムではなく、コンテンツの配信/ディストリビューションを業界全体で改善していくという趣旨を持っています。コンテンツプロバイダがモバイルでのコンテンツ配信に力を入れ始めたことが伺える動きで、ここでFlashは重要な技術と認識されています。

--Mobile World Congressの会期中、いくつかの発表を行いました。

1つ目は、"AIR for Smartphone"こと、モバイル向け「Adobe AIR」のパブリックデモとAndroid対応です。

スマートフォンOSの種類が増え、タブレットなど新しいカテゴリも生まれています。(アプリケーション実行環境である)AIRにより、開発者はさまざまなプラットフォーム対応の問題を回避できるし、ユーザーはOSを問わず同じアプリケーションを利用できるようになります。

2つ目は、(Linuxベースのモバイルプラットフォーム「LiMo」を推進する)LiMo Foundationへの参加です。これにより、LiMo端末でFlashが動くことになります。これも開発者にメリットをもたらします。

--"AIR for Smartphone"はモバイルプラットフォームの乱立という現状においてかなり戦略的な動きといえますが、Android以外のプラットフォーム対応予定は? Adobeがモバイルアプリのマーケットプレイスを提供する可能性は?

開発者は複数の画面(端末)に向けてどうやってアプリケーションを構築するのかという大きな課題に直面しています。AIRにより、クロスプラットフォーム対応が可能になります。 Androidのサポートは2010年後半に実現します。現在、BlackBerryのカナダResearch In Motion(RIM)や米Motorolaが公式に支持しており、今後他のOSへの対応も積極的に進めていく予定です。現時点ではこれ以上のことはお話しできません。

AdobeのWeb会議アプリ「Adobe Connect」をPCとモバイルで表示。AIRにより、クロスプラットフォーム対応が容易になる

Nexus Oneで有名なNew York Timesのサイトを表示。iPadでは空白になっていたFlash部分が表示されている

New York Timesの組み込まれたFlashコンテンツを再生

AIRを利用して、Flashで構築したiPhoneアプリの「Fickleblox」をMotorolaのDroidで

デスクトップではAIRアプリケーションマーケットのテストを発表していますが、モバイルでは現時点では具体的な計画はありません。既存のマーケットプレイスと協業していくことになります。

--Flash Player 10.1について教えてください。

今年前半(6月まで)のリリースを目指し、最後の作業を進めています。2009年末に、Android、Windows Mobile、WebOS(Palm)などに対応した開発者ベータをリリースしました。デスクトップ向けはパブリックリリースに入っています。

一貫性のあるブラウザベースのランタイムをスマートフォン、ネットブック、ノートPC、デスクトップPCなどに提供します。実際、10.1はもっとも幅広い端末にリーチできるブラウザランタイムになると思います。現在、Webコンテンツ、動画、広告、ショッピングと幅広いアプリケーションがFlashで開発/提供されています。10.1は、開発者にとってはさらに魅力的なプラットフォームとなるでしょう。

携帯電話で進めていることとしては、OEMやオペレータと協力し、可能な限りOTA(Over the Air)で更新する方法を探っています。現時点ではどの機種かを公開できませんが、実現すれば幅広いディストリビューションが可能となります。マーケットプレイスも1つの手段となります。

Flash Player 10.1をサポートする「Creative Suite」のモバイルオーサリングツール「Device Central」でも、次期版(「CS 5」)では数々の特徴があります。HTMLエミュレーション、マルチタッチや加速度センサーなどのモバイルAPI向けエミュレーションなどが強化されます。デバイスプロファイルは約倍増し、約750種類を予定しています。この中には、2009年秋に発表したRIMとの提携の結果となるBlackBerryの複数機種サポートもあります。日本ではNTTドコモ、ソフトバンク、KDDIの多くの端末をサポートしています。

--Flash Playerの普及率はスマートフォンの50%以上とのことですが、最も影響力の大きいiPhoneが入っていません。この現状をどうみていますか?

Appleとは分野によっては協業し、分野によっては競合の関係にあります。Appleは自社の事業理由と戦略の下でiPhoneやiPadを展開しています。現状はAppleの事業判断なので仕方がないことです。

コメントするなら、われわれはAppleの素晴らしい端末でFlashやAIRが動いているのをみたい、開発者がApple端末向けにコンパイルするのを支援したい、と願っているということです。長期的に成功するのはオープンなエコシステムだというのがAdobeの考え方です。

携帯電話の上位20社のOEMのうち19社がわれわれと直接/間接的に関係を持っており、過去7年の間に自社端末にFlashを搭載した機種を提供したか、今後1年から1年半の間に投入することにコミットしています。Flashはブラウザのエクスペリエンスを改善する魅力的な技術であり、10.1ローンチ後には新しい需要も出てくると確信しています。

--HTML5では動画サポートが予定されており、ブラウザベンダも対応を表明しています。Flashのポジションはどうなるのでしょうか?

これについては、現実よりもドラマチックに報じられている気がします。

HTMLとFlashは10年もの間、共存してきました。われわれは、技術の相互運用性に大きなメリットと機会があると信じています。HTML5という標準が高度になり洗練されてきたとしても、採用されて浸透するまでに時間を要します。Flashのような一貫性を持つようになるまで、かなりの時間がかかると思います -- たとえば、標準ビデオコーデックでベンダは同意できていません。

できるだけ幅広いオーディエンスにコンテンツを配信したいと思っているコンテンツ事業者側から見れば、Flashのメリットは明らかです。

--OSPでのモバイル以外での取り組みを教えてください。

10.1では、タブレット対応も大きな特徴となります。NVIDIA、Qualcomm、FreeScaleなどと協業し、Flashがタブレットで動くように最適化を進めています。たとえばNVIDIAは2011年に自社チップを利用してタブレットを作成するOEMは50社あると述べています。タブレットは今後、大きな市場になる可能背があります。

ですが、タブレットでは、速度、消費電力、価格のために各社がさまざまなOSとチップを利用した結果、デスクトップソフトウェアとの互換性が損なわれる可能性があります。これらのデバイスでリッチコンテンツを提供したい場合、FlashとAIRは有望な技術となります。

10.1完成後には、TVにもフォーカスを拡大する予定です。