東京エレクトロン デバイス(TED)は2月26日、都内でカスタマ向け技術セミナーを開催。自社の提供するさまざまな半導体デバイスベンダの製品を組み合わせたシステムの特長や、パートナー企業の製品特長などを披露した。

同セミナーにおいて、Xilinxが2010年1月7日にInternational Consumer Electronics Show(CES)において発表した同社のFPGA「Spartan-6」を用いたデジタルTVソリューションの設計に最適化されたマーケット特化型のターゲット・デザイン・プラットフォーム(TDP)「コンシューマ ビデオ キット(CVK)」が展示されていたので、同製品の狙いを探ってみたい。

XilinxのTDPの概要については、すでに2009年12月の発表の際にお伝えしているので詳細を省くが、簡単に説明しておくと、それぞれ特定の"分野"に向けた共通開発キットをベースに、FMC(FPGA Mezzanine Card)と呼ばれるそれぞれの用途に応じた機能カードを追加することで、カスタマの開発要件に応じようというもの。

同セミナーで展示されたCVKは、その考えをさらに深堀りし、分野ではなく特定の"マーケット(市場)"に特化したもので、デジタルTVなどでのビデオ信号処理アルゴリズム開発およびデバッグ向けに統合されたデザイン環境となっている。

なぜ、TEDのセミナーにて展示されていたかというと、12月のTDP発表時にも説明がされているが、デジタルTVと言えば日本ということで、日本市場を良く分かっているTEDがXilinxと共同で開発したためということのようだ。

CVKには「LVDS」「DisplayPort」「V-by-One HS」「HDMI 1.3」の4種類のFMCが用意されている。この内LVDSのみを同梱した「CVK Foundation Edition」(16万9,000円)と、4枚すべてのFMCを同梱した「CVK Pro Edition」(35万9,000円)の2つのパッケージが用意されているほか、FMCを除いたベースボード単体も12万9,000円で提供される。

映像処理に特化したターゲット・デザイン・プラットフォーム(TDP)「コンシューマ ビデオ キット(CVK)」を用いたV-by-One HSのデモ(手前のCVKにフルHDのソースを入れ、それをV-by-On HSでCVK間をやり取りし、奥のCVKにてLVDSに変換し出力するというもの。ボード間をつなぐケーブルを接続しているボードがV-by-One HSのオプションボード。ベースボードの間に置かれているのが、当日の朝一で完成したというHDMIオプションボード)。なお、FPGAである「Spartan-6」にはメモリコントローラが入っており、DDR2 1Gビット(800Mbps)2枚の処理を行っている(将来的には1枚あたり2Gビットまで対応する計画)。また、SPIフラッシュを64Mビット搭載し、回路構成情報などを格納することが可能となっている

他の市場に先駆けて映像処理向けにTDPが提供された理由としては、TEDが同分野に対する高い開発能力を持っていたということもあるが、Xilinxもコンシューマ分野を今後も高い成長率が続く市場と考えており、注力していきたいという思惑を持つためだ。実際に、コンシューマ分野には2009年で3,000万個のFPGAやPLDを出荷しており、同社内でも売り上げ規模は別として出荷個数としては最大のセグメントとなっている。

また、市場特有の特長として、製品の小型化や低商品電力化、映像帯域拡大といった性能向上要求が日々高まるのに合わせて、低コスト化と製品開発速度の向上という二律背反ともいえる要求が突きつけられることもあり、そうした厳しい制限の中で差別化を図るためにFPGAが付加価値を提供しやすいという背景もある。

FPGAは、プロセスの微細化により性能向上とコストダウンの影響を受けやすいデバイスであり、かつ現在のFPGAには低消費電力技術や高速トランシーバ対応などが施されている。

ただし、Xilinxでは「我々はFPGA単体で差別化できるとは思っていない」と考えており、3つの重要な要素を提供することで差別化できることを指摘する。

1つ目の要素は「製品特性に合致した差別化コア技術」。例えば超解像や迫力のある3D技術、4K2Kといった次世代ハイビジョンなど、カスタマが目指す製品にあった技術に対して柔軟に対応することで、FPGAを用いることでシステムが作りやすくなることを強調したいとしている。

2つ目は「差別化とコスト要求、俊敏なTTM(タイム・to・マーケット)を同時達成するシステムアーキテクチャ」。これに対しては、Xilinxとしてシステムに精通したアーキテクトを用意することで、ASSPなどと組み合わせて、ASSPの苦手な処理をFPGA側に行わせ、アルゴリズムをXilinxが開発して、システム全体に向けた提案を行っていくという。

この取り組みについて、日本法人であるザイリンクスでビデオシステムアーキテクトを務める立平靖氏は、「FPGAをプラットフォームの中核にすえるためのリーダーにどうやったらXilinxが成れるのか。ビジネス的に勝てる方向に導くのが我々アーキテクトの仕事」とその役割を説明する。

そして3つ目は「差別化コア技術を製品化するための効率的な開発環境」の提供。例えば、今回のCVKを用いれば、従来、映像の入出力処理の開発だけで2~3カ月かかっていたものが、その部分のリファレンスデザインなどがはじめから提供されていることから、ある意味差別化要因とは関係のない部分の開発に頭を悩ませることなく、「10分で差別化に向けた開発に着手できる」ことになるという。

TEDでも、これまでの映像技術分野のノウハウを活用することで、「同分野に対し第2、第3の製品提供を行っていくことで、日本メーカーが開発するテレビの高付加価値化をより加速していければ」との期待を覗かせる。

セミナー会場の外にはパートナー企業の製品やサービス、IPなども展示されていたほか、TEDが2月25日に発表したPCI Express Gen2対応評価プラットフォームの実ボードも展示されていた