Apple iPadをめぐる、雑誌出版社の2つの苦悩 - Financial Times」で、iPadでのコンテンツ配信をめぐる雑誌出版社の苦悩についてレポートしたばかりだが、今度は新聞社側での苦悩が漏れ伝わってきている。米Gawker Mediaでは、米New York Times(NYT)の紙媒体部門とオンライン部門が、iPadコンテンツ配信における価格やマーケティングにおいて激しい争いを繰り広げている様子を紹介している。

これはGawkerのValleywagが「Turf War at the New York Times: Who Will Control the iPad?」のタイトルで報じているもので、iPadが発表された米Appleのスペシャルイベントで紹介されたNew York Times Readerの月額課金をいくらにするかがNYT社内で争点になっているという。日刊紙を発行する出版部門ではiPadコンテンツの課金を月額20~30ドル程度に設定することを想定しており、一方でオンライン部門は10ドル程度を想定しているといわれる。

米New York Times Co.のデジタル部門シニアバイスプレジデントのMartin Nisenholtz氏

1月27日に米カリフォルニア州サンフランシスコで開催されたAppleのスペシャルイベントで、iPad向けのTimes Readerアプリを紹介するNisenholtz氏

なぜこれだけの差が生じるのかといえば、出版部門が、紙媒体とまったく同内容のコンテンツがiPad上で読めることは契約購読者を減少させるビジネス上の損失であり、それを補填すべきだと主張していることに起因する。

米ニューヨーク市内にあるNew York Timesビル。日夜ここの最上階では出版部門とデジタル部門幹部の争いが続いているという……

一方、オンライン部門側では新しいビジネスチャンスと考えており、適切な価格をつけることで売上増が見込めるという判断だ。そのため出版部門に価格やマーケティング面での主導権を握られることを避けるべく行動を起こしており、こうした議論が米ニューヨーク市内のNYTビル最上階で日夜繰り広げられているというのだ。

だが、こうした議論が存在することに疑問を抱く人々は少なくないようだ。このValleywagの報道に対して「すでにiPad以外の機種でTimes Readerが動作しており、しかも月額15ドルでの配信が行われているにもかかわらず、なぜ今さらiPadに違う価格モデルを導入しようとする議論が存在するのか」と質問を投げかけている。

これに対してValleywagでは、「The New York Times's iPad Fight Was Part of a Longer Civil War」という記事で疑問に答えている。今回の話は長年にわたってNYT社内で繰り返されてきた議論が再燃したものであり、本当の意味でデジタル出版の台頭を恐れていることの表れだという。

実際、3年前にAdobe AIRをベースとしたTimes Readerが初めてリリースされた際、当初計画では月額の課金を6ドルとしていたものが、ローンチ直前に15ドルまで引き上げられた経緯がある。

紙媒体中心の出版社や新聞社など、オールドメディアらの苦悩の姿からうかがえるのは、本当の意味でパラダイムシフトの時期が近付きつつあるという事実だ。誰もが未知の領域へと突入しつつあり、その舵取りを巡って今後も激しい争いや試行錯誤が続いていくことだろう。もしiPadがこうした議論を再燃させたのなら、AppleとSteve Jobs氏は世界を革新する可能性のあるデバイスを作ったということになる。

なお補足だが、「Apple iPadをめぐる、雑誌出版社の2つの苦悩 - Financial Times」で紹介したConde NastのWiredのiPadアプリについて、Adobe AIR版の動画デモがValleywagで紹介されている。興味ある方は参照してみてほしい。