携帯端末向けマルチメディア放送規格「MediaFLO」を推進するメディアフロージャパン企画は、KDDIとともにMediaFLO試作受信機を用いた実証試験を1月26日から開始すると発表した。USB接続型と無線LAN転送型の試作機を用意し、沖縄県のユビキタス特区においてコンテンツ配信の試験を行う。

MediaFLOは、米Qualcommが開発したマルチメディアコンテンツ配信システムで、国際規格としてすでに米国では商用サービスが開始され、英国でのトライアル実験やマレーシア・台湾での技術試験など、利用が拡大している。

MediaFLOの海外での現状

国内では、2011年7月24日のアナログテレビ放送停波に伴い利用されなくなるVHF帯の周波数を使い、「放送技術を利用して携帯端末にマルチメディアコンテンツを提供するサービス」を目指しており、KDDIらが出資してメディアフロージャパン企画が設立された。

MediaFLOでは、不特定多数の携帯端末に対して、コンテンツなどを同時・同報的に、しかも効率的に配信できるテレビ放送的なサービスが可能で、携帯電話などの通信では難しい「完全なプッシュ型のコンテンツ配信」(メディアフロージャパン企画・増田和彦社長)ができる。放送のため携帯のパケット通信も不要であり、「リアルタイムの価値提供と大容量コンテンツの配信ができる」(同)点がメリットとされる。

これまでも映像配信などを利用していたユーザーなどにとっては、よりリッチなコンテンツが提供できるとともに、パケット料金が不要なため、利用率の低かったユーザーに対しても訴求でき、コンテンツビジネス領域が拡大する、と増田社長は言う。

コンテンツ利用者を拡大するのがマルチメディア放送サービスの目標

ワンセグのようなテレビ放送と同様の映像コンテンツに加え、あらかじめ配信された映像を蓄積して時間、場所の制約なく視聴したり、電子書籍やゲーム、音楽などをダウンロードしたり、株価や天気、ニュースなどのデータを受信したり、さまざまなコンテンツの配信が可能で、今回の試験でも、リアルタイムのニュースや天気情報の配信、CATVやCS放送のような多チャンネル放送、映画やドラマ、音楽アルバムなどの配信が実施される。

従来のワンセグのようなリアルタイム映像配信(図の黄色の部分)に加え、水色の部分のようなさまざまなコンテンツが配信できるのが特徴

今回の試験で利用される携帯電話向けのUI。上部にニュースや天気の情報、中央に蓄積型の映像、下部に多チャンネル放送が一覧できる

たとえば1日3コンテンツを1週間で21コンテンツ配信し、さらに10チャンネルのストリーミング放送を配信し、その中から好きなコンテンツを選択して受信するといったサービスが携帯電話向けに提供されれば、「コンテンツ利用機会が格段に増え、携帯の接触時間がますます大きくなる。携帯の使い方が変わってくるのではないか」と増田社長。

すでに同社では、地上デジタル放送の1チャンネル分となる6MHzの周波数帯を用いて携帯電話向けのMediaFLOの試験を沖縄・ユビキタス特区で実施しており、那覇市・豊見城市の一部で3つの基地局を設置し、20の映像、3つのFM/AMラジオ放送のサイマル放送を提供してきた。映像はQVGA・30fpsで送られ、フレームレートがワンセグよりも高いため、なめらかな映像で視聴できると高評価を得たという。

実証試験でのエリア。市街に加え、一部高速道路にも基地局を設置し、トヨタ自動車が高速走行でのテストを行った

携帯向けの第1弾の実証実験で提供されたコンテンツ

今回の第2弾では、さらにコンテンツが増加している

試験ではMediaFLOの利用効率の高さが実証できたとされ、ユーザー調査でも、約4割が積極的に利用したいと回答し、「やや利用したい」と答えた層を加えると約75%が今後の利用意向を示していた。

MediaFLOの体験前後で、ユーザーへ調査をした結果。体験後は利用意向が増加

特に10~20代の男女、50代の男性で利用意向が強かった

今回始まる試験では、USBスティック型、無線LAN転送型の2つの端末を用意し、PCやスマートフォンなどの多彩な端末での利用が可能になったほか、ファイルの自動蓄積や情報のリアルタイム配信などを提供していくという。

USBスティック型の試作機は、Windows XPに対応し、放送を受信してFlashコンテンツとしてPC上に表示する仕組み。ブラウザ上で映像や情報コンテンツを利用できる。無線LAN転送型は、受信したコンテンツをワイヤレスで携帯端末に配信する仕組みで、たとえばWindows MobileなどではRTPプロトコルに対応したプレイヤーソフトで受信ができ、iPhone/iPod touchではSafariブラウザとQuickTimeを利用して受信できる。

今回開発されたVHF帯対応の受信試作機。USBタイプと無線LAN転送タイプ。USBスティックタイプはドライバがWindows XPにしか対応していないとのことで、ドライバの対応でWindows Vista/7にも対応可能だという

PCで再生しているところ。Flash動画に変換して再生されている

従来の携帯電話でも利用可能で、これはワンセグとMediaFLOを1チップに内蔵しているそうだ

Windows Mobile端末(左)とiPod touchで再生しているところ。両者に接続されているのは電源ケーブルで、コンテンツはワイヤレスで転送されている。Windows Mobile端末はCore Player、iPod touchはSafari上で再生されている

コンテンツ企業側からもMediaFLOに対する期待の声は上がっており、音楽配信のレーベルゲートは今回の試験にもコンテンツを提供。同社携帯ビジネス部の江原知倫氏は、現行のワンセグでも視聴中に着うたフルを購入することは可能だが、別画面に遷移するため「視聴しながらのコンテンツダウンロードはできない」と指摘し、MediaFLOであればより密接に番組連動できると話す。また、コンテンツダウンロード後にライセンスキーを取得する課金方法ならば、とりあえず良さそうならダウンロードして、後で改めて購入するか考える、といった動作が可能になり、より積極的なダウンロード利用が期待できると言う。

また江原氏は、将来的には音楽で128kbps以上、映像でVGA・2Mbps以上という大容量データの配信、音楽アルバム全体の配信といったように、コンテンツのクオリティ向上、制作者が提供したい形態で提供できるというメリットがあると期待を表明する。

「有料配信は伸びていて、2008年には900億円を突破して09年も好調だが、10年以降どう(音楽配信を)伸ばしていくかが音楽業界の課題となっている」と江原氏。それに対して、これまでとは異なるユーザーと制作者双方にメリットがあるプラットフォームが必要だと江原氏は主張する。「MediaFLOは高いポテンシャルを持っていて、音楽業界は注目している。着うたフル、PC配信に次ぐ新しい配信の形を提供できるのではないか」(江原氏)。

さらにウェザーニューズ取締役の石橋知博氏は、携帯ユーザーからのレポートを集めることで、気象庁のスーパーコンピュータでも予測が不可能というゲリラ雷雨の発生を、都内では90%以上の確率で予測できていると話し、「携帯を主軸にした、参加型、インタラクティブなものがこれまでの天気予報を大きく変える」と指摘する。

「天気予報のようなローカルに特化した情報は、それぞれの地域の人が情報を集め、ストリーミングやマルチメディア的に配信するのがこれからの天気予報ではないか」と石橋氏。ユーザーからの情報を集め、最適化することで予報を出すように、「自分が天気予報に参加する時代になってくるのではないか」(石橋氏)。それを実現するのが、携帯向けにブロードキャスト配信できるMediaFLOであり、石橋氏は「天気予報のプロセスを変えるぐらいのインパクトがある」と強い期待感を示す。

これまでは気象庁からテレビなどを通して配信されていたが、今後はユーザーの情報を集約して最適化し、配信する仕組みになる、と石橋氏

今後、MediaFLOは総務省による制度整備を経て、事業申請を行っていき、今年末までに詳細が決定する見込み。サービスを開始するためには事業免許を獲得するのが前提で、メディアフロージャパン企画は試験や事業計画の改善などを行っていく考えだ。

左からレーベルゲート携帯ビジネス部マーケティングルーム・ストラテジックビジネス部第3セクション課長 江原知倫氏、メディアフロージャパン企画 増田和彦社長、ウェザーニューズ取締役 石橋知博氏