CES 2010の会場で、米Intelでモバイルプロセッサを担当しているShmuel (Mooly) Eden氏に話を聞く機会を得た。これは、ラウンドテーブルという形式で、複数の記者が同席して質問するもの。このため、筆者以外の記者が聞いた質問も含まれていることを先にお断りしておく。
――Centrino(セントリーノ)ブランドは、これまで、一定の条件を満たしたモバイルノート用のブランドだったのに、今回からは、モバイル用無線LANモジュールのブランドになってしまいました。これはどうしてでしょう。
Eden氏(以下敬称略): これまでのセントリーノブランドは、一定のCPU、チップセット、そして無線LANモジュールの組合せを採用したマシンに付けていたブランドです。モバイル用のプラットフォーム立ち上げ時には、まだ、無線LANを装備していたマシンは少なく、そのため、ブランドを使って、消費者に、無線LANが利用可能なモバイルマシンであることを伝える必要がありました。いまでは、無線LANを装備していないマシンのほうがむしろ珍しく、ブランドは一定の役割を終えたと考えています。
今回からCore i3、i5、i7の3つをユーザーが選択できるようになりました。ユーザーは、3種類の性能を選択できます。このため、セントリーノという1つのブランドではカバーできなくなったのです。
――ターボブースト機能は、コアの温度などの状態により、既定以上のクロック周波数を上げるものですが、既定のクロック周波数と最大周波数の差は、同じCore i7であっても、違いがあります(*1)。これまで、ユーザーは、コア数やクロック周波数を頼りにプロセッサや製品を選んでいましたが、このターボブーストにより選択が難しくなったのではないでしょうか?
(*1) たとえば、Core i7-920XMはクロック周波数が2.0GHzでターボブースト時3.20GHzで1.20GHz差なのに対して、Core i7-820QMでは、1.72GHzで3.06GHzと1.33GHz差がある。
Eden: これまでも、多くのユーザーは必ずしもコア数やクロック周波数で製品を選んでいたわけではないと思います。今回、我々は、製品を選びやすいように、Core i3、Core i5、Core i7というブランドを作りました。これは、それぞれ「Good」、「Better」、「Best」にあたります。最も性能が高いものが必要ならば、Core i7を、価格を重視するならCore i5を選ぶといった判断が可能になっています。1つの製品で必ずしもこの3種類のプロセッサが採用されていると限りませんが、2つのうちのどちらかが選択可能なら、性能を重視するなら番号の大きなものを選べばいいわけです。
――また、今回発表されたプロセッサには、GPUが統合されています。アプリケーションの負荷が高いとき、GPUの負荷が高くなってしまって、温度が高くなり、ターボブーストが聞かなくなってしまうのではありませんか?
Eden: 実際のアプリケーションの挙動をみると、CPUとGPUがともにフル稼働している時間はわずかで、ターボブーストが有効になる場合はそれほど少ないわけではありません。たとえば、picasaのような画像を扱うソフトウェアでは、CPUの負荷が高いときには、画面が更新されておらず、CPUが処理を終えた後、画面が更新されてGPUの負荷が上がります。このような局面が多くあり、実際には、ターボブーストが有効になることが多いのです。我々は、ターボブーストが有効になったときのクロック周波数を表示するデスクトップガジェットを提供しています。これを入れてみれば、比較的多くのタイミングでターボブーストが有効になっていることがわかるでしょう。
――次世代のCPUでは、新しい命令セットが取り入れられます。命令の普及という点では、より多くのプロセッサに搭載されるほうがいいのではないでしょうか。たとえば、現在のCore iシリーズでも、WestmereとNehalemコアでは命令に違いがあります。CULVやATOMプロセッサにもこうした新命令は必要なのではないでしょうか。
Eden: 次世代のSandy bridgeでは、新しい命令が入ることは、以前よりIDFなどで公開しています。まず、CULVについてですが、新しいマイクロアーキテクチャのモバイルプロセッサが登場すれば、必ずしも同時とは限りませんが、そのあとで、CULVにも、新しいマイクロアーキテクチャを使ったコアの製品が登場します。このため、CULVについては、時期は一緒ではありませんが、いずれ、新しい命令セットが使えるようになります。
ですが、Atomプロセッサは、Core系列とは、完全に違うコンセプトのプロセッサで、低消費電力であることや、フットプリントの小さいことを優先して設計されたプロセッサです。また、インターネット利用を中心としたネットブックなどで利用されるため、高い処理性能が要求されるわけではありません。このため、処理性能を向上させるような新しい命令がすぐに取り込まれることはありません。将来的に、新命令が入る可能性は否定しませんが、用途が違うプロセッサであり、新命令が想定しているような処理を行うとはかぎらないのです。