世界初を目指すUNITEC-1
中須賀教授のもとに、ビッグニュースが飛び込んできたのが2008年4月。JAXAの金星探査機「あかつき(PLANET-C)」に相乗りする衛星の公募が行われたのだ。相乗り自体はこれまでも行われていたのだが、今回が特殊なのは、主衛星が金星に向かうということだ。相乗りする衛星も、希望すれば、一緒に金星に向かうことができる。
実現すれば、これは画期的なことだ。いままで、国の宇宙機関以外で、地球の重力圏を脱出して行った衛星はない。世界初というオマケが付く。
しかし、非常に難しいのも事実。まず、通信をどうするか。これまでの地球周回軌道では、高度はせいぜい数百km。それに比べると、金星への道程は遙かに遠い。地球からの距離は、打ち上げの16日後には600万km、100日後には3,000万kmを超える。
また、環境も厳しい。地球低軌道では、磁場によってある程度放射線からは守られているが、惑星間空間では、これにモロに曝されることになる。電子回路に放射線が当たれば、ビット反転によってプログラムが誤動作したり、場合によっては短絡が起きて故障することもある。ヴァン・アレン帯を通過するときは、特に厳しいと予測される。
ここからが、アイデアマン・中須賀真一の真骨頂。こういった逆境を逆手にとった大学衛星「UNITEC-1」を考え出したのだ。
まず環境の厳しさを利用して、衛星の中で、オンボードコンピュータ(OBC)による"生き残り"コンペを実施する。OBCはUNISECに参加している大学・高専に開発させ、軌道上で定期的にテスト、どの学校のOBCが最後まで正常に動作するか競わせる。OBCの選抜試験が昨年8月に実施されており、東京理科大学、北海道工業大学、高知工科大学、東北大学、電気通信大学、慶應義塾大学の6校が勝ち抜き、搭載が決まった。
通信は、世界中のアマチュア無線家との連携を企画した。UNITEC-1は開発期間が短いために、姿勢制御は断念せざるを得ず、その結果として、ハイゲインの指向性アンテナは搭載できない。無指向性で1bps程度の低速通信となるが、地上で複数のアンテナを使うなどして、より遠距離からの受信に挑んでもらう。それでも、1カ月程度が受信の限界と見られており、それ以遠では、研究機関等の大型アンテナを利用する見通し。
予算については最後まで苦労したが、メーカーなどで使われずに保管されていた部品なども活用して、開発費は1,000万円程度に抑えることができた(通称は"もったいない衛星"だとか)。現在、フライトモデルの開発を行っているところで、今年2月の認定試験までに完成させる予定だ。