そして、気になる価格設定だ。品質に妥協をせずに安くできた理由について、星氏は「厳しい母がいて貧乏な父がいて、そういう家庭に生まれると自然にいい子に育つ、みたいな感じです」と答える。一歩間違えれば息子が盗んだバイクで走り出しそうな厳しい環境だが、グレずに育って「頑張っているのは事実ですけど、赤字ではないです」という現状にいきついたとか。

具体的には、最初から予算が絞られていて、その上で具体的な完成品のイメージをチーム全体で共有できたことが大きいという。「お金をかけてでも軽く薄くしろ」ではなく、「お金をかけずに軽く薄くしろ」という意思統一がなされ、手間は増やしてもコストは減らすように動いたそうだ。林氏は語る。「筐体を軽くするにも、新素材を導入する方向ではなく、基板の配線が短くなるように工夫してそのぶん軽量化するという方向ですね。また、設計段階から長野テック(VAIOの製造所)と一緒に進めたので、かなり初期から安い構造のまま剛性を出すアイデアをもらったり、特殊な形状の部品でも既存の設備を工夫して量産できるようにしてもらったりと、人の力でとことんまで無駄をなくしていった結果だと思います」

加えて、薄さと平坦さを追求するために、ボディを構成する部品が減り、結果としてコストダウンまで図れたという側面もあるという。「マザーボードを一般的な両面基板ではなく片面基板にしたのも薄さ追求の結果ですが、それで配線関連のコストが抑えられたということもありました」(林氏)

VAIO Xの基板。マザーボードは裏側に配置されている。中央にあるのは、基板やチップをむき出しにしたSSDだ

マザーボードは片面にチップや配線を集約。裏表を行き来する配線がなくなり、コストを最小限に抑えることができたという