--日本において、マイクロソフトリサーチアカデミック連携プログラム「Mt. Fuji Plan」が始まりました。ここではどんな成果を期待していますか。

このプロジェクトは、非常に大きな枠組みのなかで取り組んでいきたい。ですからプロジェクトの名称にも日本のシンボルとなるものをつけました。中国であれば「グレートウォール(万里の長城)プロジェクト」となっていますが、日本ではやりは「富士山」ということになります(笑)。私も次の来日ではぜひ、妻と富士登山をしてみたいと考えています(笑)。

Mt. Fuji Planは、共同研究、人材育成、学術交流、カリキュラム開発という4つの柱から取り組んでいきますが、基本的な考え方は、日本の才能があるコンピュータサイエンス分野の研究者/学生に対してサポートしていくという点です。日本の大学生がインターンシップの形で、マイクロソフトリサーチのラボで研究の経験をしたり、ファーストクラスの研究者はどんなことをしているのかを直接見てもらいたいとも思っています。そして、私が大きな期待を寄せているのがカリキュラムの革新です。いま大学にいる学生たちが、明日の社会、明日の世界に向けて、きちんとしたスキルをもった形で送り出したい。そのための準備が必要です。いまの大学のコースで教えていないような、新たな技術を学んでもらえカリキュラムの創出に期待しています。

Mt. Fuji Planの4つの柱

たとえば新しいプログラミング言語に対して、マイクロソフトがキットを用意して、学生が試せる環境を作るといったことにも取り組みたい。一方で、ソフトウェアエンジニアリングの分野においては、オープンソースのソフトウェアツールを提供し、これを活用した積極的な教育体制の確立にも期待したい。日本が得意とするロボット工学の分野への取り組みや、ゲームを使った領域での研究成果にも期待しています。ゲームデザインが、教育にどう利用できるということも研究してもらいたい。とにかく、いろいろな楽しいことを期待しています。

--結果は3年後に出ますか。

すぐに成果ができるものと、そうでないものとがあります。たとえば、新たな挑戦として、シチズン・サイエンス・プロジェクトがあります。ここでは、天文学分野において「ギャラクシー・ズー」という取り組みがありますし、地球温暖化の問題についても、低年齢の子供たちが理解できるような仕組みを作っているものもある。社会貢献を前提としたe-Heritageへの取り組みもあります。こうしたものも、学術分野との協業で成果に結びつけたいと考えています。

--今後、マイクロソフトリサーチの取り組みはどう進化しますか。

科学者や学生と協業することによって、マイクロソフトのプラットフォームが拡張し、これを最もシンプルな形で利用してもらえる環境を作りたい。個人的にはここに情熱を注ぎたい。マイクロソフトは、ソフトを開発し、ツールを開発し、しかも、クラウドへも進出している。全方位でビジネスを行っているマイクロソフトだからこそできる貢献であり、そうした実績をベースに科学者たちを支援していきたい。マイクロソフトリサーチは、各国でさまざまなプロジェクトを実施しています。これらをリサーチプラットフォームという基盤とし、さらに、マイクロソフトのツールに限定せずに、さまざまなツールを集めて、使ってもらえるようにしたい。そのときに、提供されるるツールのなかで、マイクロソフトのものが最もよく、最も貢献するものでなくてはいけませんが(笑)。

最先端の技術を日本の企業がビジネスに使ったり、研究者が自由に使うことができる環境が重要です。科学者の世界では、いま、HIVのワクチンに予防接種の開発が注目されている。検証もあり、何年か待たないといけない。だが、この研究の仕組みは確立されており、登山でいえばベースキャンプを出発し、いよいよ登頂を始める段階にある。だが、コンピュータサイエンスの分野は、まだベースキャンプにいる段階。残念ながら、どのツールを使ったらいいのかを模索しているところです。ここに、マイクロソフトの有効なツールを提供し、さらにこれを活用して成果を出してもらえるようにしなくてはならない。これは、マイクロソフトリサーチが取り組むべき、避けては通れない仕事だといえます。