矢口映画にブラックなユーモアは必要不可欠

――『ハッピーフライト』もそうですが、矢口監督はあまり作品内で恋愛を描かないという印象があります。これは、現在の邦画では珍しいと思うのですが。

矢口「ああ、またやり損ねました(笑)」

――監督の得意とする、笑いも、これまでよりブラックというか……。

矢口「笑いは大好きですね。誰かを傷つけてでもやりたいです(笑)。そのせいで、怒る観客もいるかもしれませんが、『だってしょうがないじゃない』と大らかにやりたいと思うんですよ。カツラの人、入れ歯の人、ゲロを吐いてしまう人というのは現実にいるわけで、日常的に起こりうる普通の景色です。だから、僕の映画からブラックな表現というかユーモアが消える事はありません」

――ゲロや笑いといえば、アメリカにはファレリー兄弟のような存在がいますが、日本では矢口監督のようなスタンスの人は少ないような気がします。

矢口「慣れの問題だと思いますよ。『ウォーターボーイズ』でも、イルカが失神して背の穴からゲロを吐くという描写をやりましたし。『スウィングガールズ』では、猪を殺してみたり、生徒は楽器にゲロを吐きますし……。こういう描写は、僕はとても好きなので、止めようがないんですよね(笑)。観客に対してわざと意地悪してるわけではないので、徐々に笑いとして、受け入れてもらえてるんだと思います」

――今回もゲロはありましたしね。そんな矢口監督ですが、今後、恋愛を描く可能性はあるのでしょうか?

矢口「多分、やりますよ。描きたい気持ちはあるので」

――どストライクの恋愛ものですか?

矢口「いや、完全に変化球でしょうけれど(笑)。次の作品か、その次かわからないけど、いつかやりたいです」

――矢口監督の恋愛映画ってまったく想像つかないのですが、楽しみです。ところで、矢口監督はPFFでグランプリを獲得してから、順調にキャリアを積まれていますが、映画監督を目指している方々に、アドバイスとかいただけますか?

矢口「自主映画を作っている人も、プロでやっている人も、それほど能力に違いはないと思います。これは面白いというアイデアさえ持っていれば、技術なんて後から付いてくるんですよ。面白い事を考えてる人が、面白い映画を作るのだと僕は思います。だから、アドバイスとしては、『面白い事を考えてる人は、お願いだから出てこないでください!』と言いたいですね。僕の仕事が減るので」

――ははは。

矢口「冗談ではなくて、本当にそうなんですよ。プロで面白い映画を何本も作っている監督が沢山いますけど、それは企画・脚本の力も大きいんですよ。ダメな企画を監督すれば、良い監督でも、やっぱりダメな作品になる。でも自主映画は企画・脚本から自分で出来るので、面白いアイデアさえあれば、資金が少ないという壁さえ越えれば、面白い作品が出来上がると思うんです。その能力がある人は続けていれば、いずれプロになっちゃうんです。その才能を誰かが見つければ……。だから見つからないように、こっそり作ってて欲しいです(笑)」

――今日はどうもありがとうございました。

ハッピーフライト
5月22日発売
スタンダードクラス・エディション(DVD) 3,990円
ビジネスクラス・エディション(DVD) 6,300円
ファーストクラス・エディション(Blu-ray) 9,240円
発売元:フジテレビジョン/アルタミラピクチャーズ/電通 販売元:東宝

インタビュー撮影:石井健

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