北極を覆う厚い氷は、地球全体を冷やす"エアコン"のような役割を果たしている。この極冠のおかげで水も空気も適度な温度に保たれるのだ。だが、止まらない温暖化の進行は、この自然の温度調整機能を徐々に脅かし始めているようだ。米航空宇宙局(NASA)と米雪氷データセンター(National Snow and Ice Data Center、以下NSIDC)の科学者チームは4月6日(現地時間)、人工衛星から得られた北極海周辺の観測結果を公表した。それによると、北極海を覆う氷は年々その範囲が狭まっており、また氷の厚みも薄くなりつつあるという。

今冬、北極で氷の範囲が最大に達した2月28日にNASAの地球観測衛星「Aqua」が捉えた極冠地域の画像

北極海の調査を続けてきた科学者チームは、1979年の調査開始以来、今冬が「5番目に氷の量が少なかった年」であり、また、1位から6位までには2004 - 2009年の各年がランクインするという。今冬、北極付近で氷の範囲が最大に達したのは2月28日で、約941万平方キロメートルを記録したが、この数字は1979 - 2000年の平均値よりも約447平方キロメートル少ない。

だが、より深刻なのは氷の厚みが薄くなってきていることだ。研究チームのリサーチサイエンティストのひとり、コロラド大学のWalter Meier氏は「氷の厚みはその健康状態を知る重要なバロメータ。冬に極冠を覆う氷が薄ければ、夏になればすぐ溶けてしまう氷ばかりになる」と語るが、ここ数年の傾向として、ひと夏を越せずに溶けてしまう氷が増大しているという。その割合は北極の氷全体の約70%を占め、1980年代には40 - 50%だったことを考えると、いかに温暖化が進行しているかがわかる。逆に2年以上生き長らえている厚くて大きな氷は10%以下しかない(1980年代は30 - 40%)。

北極付近の氷の変化を表した図。左は1981 - 2000年の平均、右は2009年(今冬)のデータ。赤は2年以上の氷で、オレンジは薄い氷を示す。厚い氷から薄い氷へと、北極付近の氷の質が劇的に変わっているのがわかる

NASAの地球観測衛星「ICESat(Ice, Cloud, and land Elevation Satellite )」の観測データによれば、ひと夏で溶けてしまう氷の場合、その厚みは平均約1.8メートル、対して2年以上の氷は平均約2.7メートルになるという。ICESatチームを指揮するNASAジェット推進研究所のRon Kwok氏によれば、データから「厚い氷が薄い氷に置き換えられていく率がここ最近、劇的に高まっている」と警鐘を鳴らしている。同氏らはICESatのデータをさらに分析し、気候変動と氷の量や厚さとの相関関係を明らかにしていくという。