顧客ユーザーにとって、買収後の製品ラインナップやサポートの行方は気になるところだ。同業者によるライバル同士の合併ということで、当然多くの製品が重複し、買収するIBMにとっては"無駄"が多い。

この買収におけるIBMのメリットは「顧客獲得」「シェア拡大」の2点に尽きる。買収総額はSunの17日付の株価の終値に100%のプレミアを付与した約65億ドルと言われているが、これだけの資金を投入してなお、メリットを享受できるとの判断なのだろう。Sunが抱える大手顧客はドル箱となる可能性が高く、大規模システムを得意とする2社が組むことでシェア競争上も有利となる。IDCの最新レポートで、両社を合わせたサーバ市場全体でのシェアは40%強だが、UNIXサーバに限定すると65%強のシェアとなる。かつてのメインフレーム時代のようにほぼ独占状態となり、他社にとっては大きな脅威だ。

市場シェアの面ではサーバ以外にも興味深い指摘がある。Sunが2005年に買収したテープストレージ最大手の米StorageTekが、再び脚光を浴びることになるというのだ。テープストレージは確実な利益を生む反面、大きな成長は見込めない。正直な話、Sunにとっては非常に扱いづらい資産でもあった。Sun CEOのJonathan Schwartz氏は以前、StorageTekについて「確実に利益を生み続ける一方で、Sunに新たな顧客へのアプローチを与えてくれるもの」と説明していた。当時の買収金額が41億ドルだったことを考えれば、Sunの血肉のかなりの部分を占めることになる。

現在すでに多くのベンダーが撤退してしまったこともあり、StorageTekが扱う大型テープライブラリ装置は同社とIBMのほぼ独占状態にある。HDDやSSDのような爆発的な伸びこそないものの、安価なテープ製品はアーカイビングやバックアップの分野で現役であり固定ユーザーも多い。カートリッジの互換性上の問題からベンダーロックインが行いやすく、保守サービスと組み合わせれば定期的な収入が約束される。ハードウェアから距離を置きつつあるIBMにとっても、こうした仕組みはメリットが大きく、大規模サーバとストレージ製品は買収後もサポートを継続する可能性が高いだろう。

残るは小中規模サーバやプロセッサ、ソフトウェア関連の資産だ。Sunは創業者の1人であるAndy Bechtolsheim氏を中心に、AMDのx64プロセッサを搭載した「Galaxy」を発表し、PCサーバ市場に進出している。同製品は同分野で先行するHPやDellを追撃し、大規模サーバに依存という偏った収益構造から脱却するための戦略製品だった。2008年第4四半期はPCサーバ市場全体が落ち込むなか、Galaxyのみが2桁のプラス成長を達成している。また富士通と共同開発のミッドレンジサーバ「SPARC Enterprise」シリーズ、これにUltraSPARCのプロセッサ製品を加えたものが同社の現在のサーバ製品群となる。

2005年9月に初のx64サーバ「Galaxy」を発表するJonathan Schwartz氏(右、当時COO)とシステム部門担当EVPのJohn Fowler氏(左)

アーキテクチャの解説を行うGalaxyの開発担当にあたったAndy Bechtolsheim氏

大規模サーバでの実績を考えれば、UltraSPARCシリーズがいきなりフェードアウトする可能性は低い。将来はPowerなどのプロセッサに統合されるかもしれないが、"Niagara"ことUltraSPARC T1/T2のようなユニークな製品もあり、当面は併存する可能性が高い。日本での販売契約を結んでいる富士通に資産を売却する可能性も考えられるが、サポート継続を考えればライセンス問題を含めてしばらくは現状維持を選択することになるだろう。PCサーバの動向は不透明な部分もあるが、ハードウェアはしばらく製品ラインナップが重複して存在することになりそうだ。

難しいのはソフトウェアだ。Javaは、そのオープンソース化にプレッシャーをかけ続けてきたIBMにとって、Sunから切り離すメリットがある。Solarisはサポートを継続しつつ、必要な資産のみ自社製品に取り込むことになるだろう。近年、Sunは積極的にオープンソースを取り込んできたが、この扱いはさらに厄介だ。IBMは過去にEclipseプロジェクトを成功させているが、オープンソースプロジェクトの維持には開発者コミュニティ支援が必要となる。MySQLやOpenOfficeのほか、多数のプロジェクトをSunは抱えており、IBMの製品と重複するものが多い。すべてを維持する可能性は低く、大胆な取捨選択が求められるだろう。