このところ環境への関心が高まっており、情報通信技術分野でも"グリーンIT"という流行語が生まれている。北欧スウェーデンは環境やエコロジーでは、大国をリードする先進国。ゴミ分別やスーパーへのマイバック持込は世代を交代して日常生活に根付いており、日本や韓国、中国、アメリカなど、世界各地からの視察も多い。

スウェーデンのアプローチをみていると、使わない/ゴミを出さないといった収縮型ではなく、技術を使って解決しようという拡大型という印象を受ける。無理なく、ライフスタイルに無理のないエコロジーが成功の秘訣かもしれないと感じた。

本稿では、環境問題を解決する革新的技術を育成するストックホルム市の投資担当に話を聞いたほか、エコシティーとして知られるハマービー・ショースタッド地区を訪問した。また、エコロジーを企業文化の中で実践するスウェーデンを代表する企業、Ericssonにも取り組みを紹介してもらった。順次、紹介していきたいと思う。

2050年に石油/石炭依存ゼロに - 技術と意識で環境問題に取り組むスウェーデン

国土の半分が森に覆われ、湖と海に囲まれた北欧の国、スウェーデン。この国に住む人々にとって自然はとても近い。そのような地理的条件が環境への意識を育んだのだろうか、スウェーデンはさまざまな面から環境問題に取り組んでいる。たとえば現在、ストックホルム市のゴミの再利用率は95%という高レベルを誇る。市民の生活から出たゴミは、ここでは「資源」と考えられており、バイオマスプロダクションなどに活用されている。

スウェーデンが環境問題を課題としたのは1960年代にさかのぼる。このまま地球の資源を消費していくとどうなるのか - 問題意識を持ったスウェーデンの呼びかけがあり、国連は1972年、環境に関する初めての会議をストックホルムで開催している。同じ頃、政府は石油依存を防ぐ方針を固め、環境保護を政策として打ち出した。

ここで、スウェーデンの環境に関する数値をいくつか見てみよう。二酸化炭素の排出量は1990年から2006年の間に9%削減、暖房のエネルギー源としての石油依存は1970年から現在の間に90%削減した。現在、ストックホルム市内を走る半数以上のバスが、バイオ燃料を利用している。

ゴミは資源 - 徹底した再利用

スウェーデンには豊富な木材があることから、バイオマスや再利用エネルギー分野が発達してきた。冒頭で紹介したゴミについては、家庭ゴミ分別は70年代に導入されており、市南部にある焼却施設にて焼却、再利用される。燃焼プロセスから生じるエネルギーのほとんどは暖房と電気に使われ、残りは不燃金属と灰になる。不燃金属は再利用し、灰は埋め立てにまわされる。このような徹底処理により、再利用レベル95%を実現している。廃棄物の山として堆積されることはない。

Business Region Development(SBRD)のビジネス開発マネージャ Irena Lundberg氏

欧州連合(EU)は規制により、再利用できる廃棄物を保存を禁止している。「スウェーデンではこの規制が導入される前に国内で規制を設けていたことから、廃棄物の再利用はEUレベルを上回っている」とストックホルム市の投資促進を担当するBusiness Region Development(SBRD)のビジネス開発マネージャ、Irena Lundberg氏は言う。

再利用エネルギーでは、海洋エネルギーと核エネルギーの2分野を中心に開発が進んできた。この結果、エネルギー生産は石油/石炭から、木材燃料、廃棄物、水力など再利用エネルギーに急速に移行しつつある。現在、少なくともエネルギーの80%が石油/石炭以外から得ているという。

バイオガス、燃料電池など多様なクリーンテック企業

環境問題に対する取り組みを支えているのが、クリーンテックなどの最新技術だ。この分野を開拓してきた多くの北欧企業がストックホルム市に拠点を構えており、市としても、経済発展という点で研究開発に投資したり、ベンチャー育成を支援している。

現在、ストックホルム地域には約3,500社のクリーンテック企業がある。代表的なものとして、バイオ燃料のSwedish Biofuels、バイオガスのScandinavian BiogasやChemrecなどのほか、ナノテクを利用してインテリジェンスガラスを製造するChromoGenics Sweden(外気温にあわせた熱の取り込み/放出により、暖房費を50%削減できるという)、携帯端末向け燃料電池を開発するmyFC、などがある。水力エネルギー、廃棄物処理などの分野も多い。

太陽エネルギー企業ClimateWellは、独自開発のトリプルフェイズ吸収技術により太陽熱を使った暖房と冷房ソリューションを提供する。同社は2007年に世界経済フォーラム(WEF)のテクノロジーパイオニア賞を受賞しており、これまでスウェーデンでは注目が低かった太陽エネルギー分野を大きく牽引しそうだ。

これらクリーンテック企業の2006年の総売上高は、前年比11%成長し37億ユーロに達しているという。輸出高は9%増の6億ユーロで、2003年以来75%増加したという。中でもバイオガスは注目株。毎年10倍ペースで成長しており、供給不足といわれている。

クリーンテック企業の背後には、スウェーデンの環境学の歴史がある。環境技術の研究は、ウプサラ大学、王立カロリンスカ研究所などの高等教育機関で進んでおり、ChromoGenicsは大学の研究から生まれたビジネスだ。ベンチャー企業支援は、ベンチャーパークのあるシスタやストックホルム市が積極的に進めている。

SBRDのディレクター、Asa Bergstrom氏によると、クリーンテックのビジネス化に対するする公共投資は、約1億2,600万ユーロに達しているのだそうだ。