視点によって変わるが、Mozilla Labsの4大プロジェクトは「Weave」「Prism」「Geode」「Ubiquity」だ。FennecはこのうちWeaveが統合された状態でリリースされることになるとみられている。PCとモバイルをシームレスに統合するための取り組みだ。
たとえば昼食に出ていくシーンを考えたい。同僚にGoogle TalkやGmailで連絡を入れて昼食にいく連絡をとる。Firefoxでお店の地図を開いておいて、そのまま席を立つ。外にでたらスマートフォンでFennecを開く。するとさっきまでPCで使っていたのと同じタブが開かれ情報が表示されている。その地図を見ながら店に向かって同僚と合流する。こうした同期を実現するのがWeaveというわけだ。
Weaveは同期のみならずWebサービスへのデータ提供インタフェースとしても機能するとみられている。ユーザが許可した対象にのみ、特定データへのアクセスを許可することで、安全に簡単にWebサービスを活用できるようにしようというわけだ。
WeaveのデータはMozillaからは閲覧できない
Weaveで保持されるデータはMozillaからはアクセスできない。ユーザデータをホスティングする場合、ユーザのデータにアクセスしたいと考えるのはサービスを提供する企業であればまず考えることだが、Mozillaではそういったことはしないという。利潤追求型の組織ではなくイノベーションを提供するのが目的という位置づけにあり、ユーザ体験を優れたものにした後で収益モデルを検討するスタイルだ。
Weaveで保持されるデータは暗号化された状態でサーバに保存される。このため仮にWeaeveサーバがクラッキングを受けたとしても、そこからユーザの情報を取り出すことは不可能といわれている。
また、細かいアクセス設定機能が提供される予定になっており、ユーザは、第三者や任意のサービスに対して自分のどのデータへのアクセスを許可するのかを設定できる。アクセス許可を完全にユーザの制御下におくわけだ。
サーバのスケーラビリティが課題か、サードパーティサーバの提供で企業採用にも対応
Weaveは大規模なWebサービスになるだろう。現在のところ25,000ユーザを上限としてWeaveサーバが公開されている。今後スケーラビリティ能力をサーバ側で提供できるかどうかが、Weaveの成功の鍵を握ることになりそうだ。実際、Firefox 3が公開されたときにはアクセスをさばききれずにサービスダウンが起こっている。Weaveが提供されたときもアクセス負荷が高すぎてサービスが使えない状況が起こっていた。
MozillaではWeaveをMozillaサーバでのみ提供するのではなく、オープンソースソフトウェアとしてサーバを公開し、必要に応じて企業や個人でも使えるようにする計画でいる。企業としてはデータを他社のサーバに保持するというのは難しい選択だ。しかし自社内にサーバを構築して使えるということになれば、利便性の面から導入するのはやぶさかではないという状況になる。
Weaveに関しては、FennecのみならずFirefoxでも取り込まれることになるとみられる。このまま進めば、Firefox 3.2にはWeaveの機能の全部かまたは一部が取り込まれることになるだろう。
iPhone対応はどうなる? Operaと同じく対応はできない
MozillaのiPhoneに対する姿勢は変わっていない。Appleの提供しているiPhone SDKを使ったFennecの開発は行えないというのが、Mozillaの見解だ。AppleはOpera miniの登場を拒否するなど、ほかのブラウザの搭載を拒否している。
配布はダウンロードからプリインストールまで幅広く
公開されるFennecがどういった経路で配布されるかだが、考えられる方法(プリインストール、後からダウンロードしてインストールなど)のすべてを検討するとしている。この辺りはMozillaのみならずデバイスを提供するベンダとも検討が必要になるところだ。
FirefoxとFennecが融合することはないのか? - 答えはノー
今後、タッチスクリーン機能を搭載するノートPCが増えるにつれ、ノートPCとスマートフォンの敷居はもっと曖昧になるだろう。その場合、Fennecで実現されたUIはPCでも有益なものとなる。FennecのUIがFirefoxへマージされることはないのだろうか。
答えはノーだ。Firefoxにはすでに多数のユーザがいる。FennecのようなUIに変更することは、ほとんどのユーザに対してインパクトが強すぎるというわけだ。しかし道がないわけではない。本稿冒頭で説明したように、FennecはWindows版やMac OS X版、Linux版が提供されている。FennecのUIを使いたければPCでもFennecを使えばいいわけだ。特に、ミニノートではFennecは便利に活用できるだろう。
またMozillaのモバイルチームやFirefoxチーム、Mozilla Labsは強い連帯関係にある。アイディアや実装はチーム間で共有認識として理解されている。まったくそのままマージされることなくとも、Fennecで得られた経験はFirefoxの開発にも活かされる。モバイルプラットフォームへ展開することでFirefoxも成長するというわけだ。
Mozillaでは現在の状況を4年前に見立てている。IEがほとんどのシェアを占めている中Firefoxをリリースし、そして4年かけて20%のシェアを獲得するところまでイノベーションを続けてきた。今度はモバイルプラットフォームで同じことに挑戦しようとしている。状況はだいぶ違うように思えるが、新しいプラットフォームへ向けてMozillaが本気で取り組んでいる様子はよく伝わってくる。今後の展開に引き続き注目だ。