米Appleの「iPhone」が登場して1年余り、モバイル業界は大きく動いている。iPhoneはオペレータを選ぶことで、これまでの端末メーカーとオペレータのパワーバランスを大きく変えた。また、アプリケーションへのアクセス、そしてダウンロードという点でも、消費者に大きな変化をもたらした。

モバイル業界のパワーバランスは今後どのように展開していくのだろうか。スウェーデン・ストックホルムで開催された技術と投資のイベント「ETRE 08」にて、米Google、フィンランドNokia、インフラベンダ、コンサルタント、アプリケーションプロバイダの代表者がこれをテーマにディスカッションを行った。

ディスカッションに参加したメンバー。左から、米GoogleのWesley Chan氏、カナダBlueslice NetworksのStephan Ouaknine氏、英SynchronicaのCarsten Birkschulte氏、コンサルタントのPeter Trinkl氏、フィンランドNokiaのAntti Basara氏

アプリケーションベンダには好機

モバイル電子メール同期機能などを提供する英SynchronicaのCEO、Carsten Birkschulte氏は、現在の状況は自社のようなアプリケーションベンダにとって有利だという。

「オペレータは顧客という資産を守ろうとしている。携帯電話メーカーは覇権を勝ち取ろうとしている。Appleは、端末ベンダはクールなデバイスを提供するだけでなく、端末と紐付けされたサービスを提供することもできるということを実証した。これがきっかけとなり、端末メーカーはサービスプロバイダに転身しようとしている。Googleも同様で、ユーザーにサービスを提供しようとしている」

オペレータにしてみれば、黙っていればこれまでの領域を侵されることになるから必死だ。「オペレータはこれまでも付加価値サービス(英Vodafoneの「Vodafone Live!」など)を提供してきたが、かならずしも成功とはいえなかった。しかし、ここにきて好転しつつある」。現在、データの売上高の8割がオペレータのポータルから発生しているという。

Birkschulte氏は、「このような状況で、メリットを受けるのはアプリケーションベンダだ」という。「誰がユーザーを所有するのかの戦いだ。アプリケーションベンダはプレイヤー全員に武器を供給しているようなものだ」

市場は縮小しているのか?

独立コンサルタントで、今年夏までスイスSwisscom Mobileで最高戦略責任者を務めていたPeter Trinkl氏は、「忘れてはならないのは、市場そのものは収縮傾向にあること」と警告する。ARPUは縮小傾向にあり、世界的に進んでいるデータ定額制の導入により、さらに下がると予想される。「オペレータ、端末メーカー(が提供するサービス)、アプリケーション、すべては同じ収益源だ」 -- 収縮する市場に、相次いで企業が参入している状態だと要約する。

これに反論するのは、Nokiaで端末の研究開発を統括するAntti Vasara氏(モバイルデバイス担当上級副社長兼ジェネラルマネージャ)だ。「消費者を所有するという考えは危険」とVasara氏。現在のモバイル業界は、インターネット、モバイル、コンテキスト対応が融合しつつあり、市場のパイを拡大させることにフォーカスすべきという見解を示した。「iPhoneが成功したのは、消費者とエモーショナルコンタクトがあったから」とライバルの成功を認め、市場の拡大は可能という意見を述べた。