旭川家具のデザイン力とITを融合

それにしてもなぜ地域活性のキーワードが"Webデザイン"なのだろうか。そもそものきっかけは、2007年4月にマイクロソフト、旭山動物園(旭川市)、AICTが共同で旭山動物園のコンテンツサイト「Mother Earth ~母なる地球~」を制作、公開したことにある。しかし、その背景には、旭川市が、工芸デザインの街として国際的に知名度を高めてきた実績と、低迷するIT産業の実態があるようだ。

Mother Earth ~母なる地球~」では、旭山動物園の動物に関する生態系などの情報を、美しいグラフィックとともに閲覧することができる(動作環境:Windows Vista/XP2 SP2+.NET Framework 3.0)

旭川リサーチセンターには、家具が数多く展示されている

旭川家具は上質な木材と高いデザイン性で知られる家具ブランド。「IFDA(国際家具デザインフェア旭川)」や「旭川デザインマンス」などのイベントを通じて国内外にその知名度を広めてきた。一方、IT産業関係者の間には"立ち後れ"に対する不安があるという。コンピュータ・ビジネス代表取締役でAICT運営委員 共同開発部会長の関仁氏によると、道内のIT関連売り上げの約85%は札幌市(2,500億円)に集中。旭川市のIT産業は、室蘭市(113億円)や函館市(107億円)に次いで売り上げ、雇用の面でも第4位(56億円)と、低迷感が漂うのが実状だ。AICT議長の古川氏は「人口に合わせたくらいのIT関連の売り上げを出したい」と話す。そうした地元IT業者の思いが、3年前のAICT立ち上げのきっかけになっている。

※各都市のIT関連売り上げは、「北海道経産局 北海道ITレポート2004」より。

AICT設立後、打開策を求める中でヒントとなったのが、昨年のマイクロソフトと行なったMother Earthの共同制作。「(両者の関係を)このまま終わらせるのはもったいない。このつながりを太いパイプにできないか」(関氏)。ちょうどマイクロソフトからはSilverlight 2などの最新Webテクノロジが発表され、リッチメディアコンテンツへの注目が高まってきている時期だ。画面レイアウトや操作性などデザイン部分への要求も高度化している。需要が高まるSilverlightに強い技術者を育成し、さらに旭川市が得意とする"デザイン力"をWebデザインに活かすことができれば地域の特色も出せるのではないか――全国に例を見ない「Webデザインの街」構想は、そうした基幹産業の強みを活かしつつ、新たな産業の展開を模索する中で生まれたものだ。関氏は「デザインの部分とITが結びつけば、他所にない旭川を発信できる」と、この構想への期待を語る。

旭川ICT協議会とマイクロソフトの取り組み経緯

デザイン業界との連携などを含む、「Webデザインの街・旭川」構想に向けた取り組み

この試みには地元デザイン業界や教育機関も協力体制を敷いて挑む。たとえば、東海大学芸術工学部や旭川大学情報ビジネス専門学校では、マイクロソフトのWebデザイン技術に関するカリキュラムを実施予定という。記者会見に出席した旭川デザイン協議会 専務理事の伊藤友一氏は、"従来のデザイン"をWebデザインに転化する具体策はこれから考えていくとしたうえで、「オペレーターの養成だけには終わらせない。アイデアやコンテンツ、発想に広がりのある、コンセプトメイクのできるクリエーター」の育成が重要と話す。