Dolby Japanは8日、3D上映の行われる新作映画「センター・オブ・ジ・アース」の日本公開(今月25日)が近づいたのにあわせ、同社の3Dデジタル上映技術「Dolby 3D Digital Cinema」(以下Dolby 3D)についての説明会を開催した。

Dolby 3D方式の映像のデモ。50層フィルタを搭載した右のメガネをかけると立体に見える。この写真だと左右のフィルターが赤・青に見えるが、映像の色合いへ影響は感じられない。メガネは再利用するため、盗難防止タグが埋め込まれている

一般的に3D映像は、左右の目に別々の映像を見せることで人に奥行き感を知覚させているので、フィルム映画の場合、左目用・右目用に2つのフィルムとプロジェクターを用意して同時に映写する必要がある。しかし、フィルムの投影像はどうしても機械的に微妙な揺れが生じ、それが左右の映像間で異なって発生するため、両映像間の視差が安定せず観客の疲労感が強かった。

3D映画をフィルム上映する場合とデジタル上映する場合の比較。フィルムでの弱点はデジタル上映により解決されたとする

Dolby 3D方式では、映像の光の波長を、左目用・右目用でそれぞれ別の方向にシフト(一方は波長を長く、他方は短く)することで左右を分離。デジタルプロジェクター内には左右半分ずつ別の特性を持つ円形のカラーフィルターが搭載されており、これが左右の映像の切り替えに同期して回転する。このフィルターと、観客のかける3Dメガネの間の作用によって、左右の目には別々の映像が見えることになる。1秒あたりの画像数はフィルム映画が24コマのところ、Dolby 3D方式は左72コマ・右72コマの計144コマのため、ちらつきもないという。

左右の映像の波長をシフトし、回転するフィルターを通した光で映写することで、左右の目に別の映像を見せる

デジタル3D上映の場合、映像の揺れがなく自然で疲れにくい3D映像が得られるということのほか、プロジェクターが1台で済むので劇場側の負担も少なく、上映館をより増やしやすいというメリットがある。また、デジタル3D上映には偏光メガネを使う方式もあるが、その場合劇場を専用の反射特性を持つシルバースクリーンに張り替える必要があり、プロジェクターの外部に偏光板を設置するため画質への影響が出やすいのに対し、Dolby 3D方式は通常のマットスクリーンをそのまま利用可能で、フィルターをプロジェクター内の光源直後に設置するので画質も高いとしている。

同社の推定によると、現在国内でデジタルシネマ上映に対応した劇場はおよそ80館で、このうち約半分が3D上映にも対応している。海外を見てみると、米国はデジタル上映劇場が約5,000館、このうち約1,000館が3D対応、欧州ではデジタル上映劇場が約1,200館、このうち約300館が3D対応だという。Dolbyのデジタルシネマに対応したプロジェクターはフィルターを追加することで後から3Dに対応することも可能だが、日本はデジタル上映に対応した劇場が少ないので、Dolbyでは3Dの話題作を足がかりにしてデジタルシネマ自体の普及を図りたい考えだ。

昨年、Dolby 3D方式の日本初採用作品となった「ベオウルフ/呪われた勇者」では、3D上映館の興行成績が一般上映館に比べ動員で3.2倍、収入で4.5倍だったといい、米国ではこの2月に3Dで公開されたコンサート映画「Hannah Montana & Miley Cyrus」が一週間で興行収入3,110万ドルを記録するヒット作となったなど、劇場の収益を伸ばすためにも今後ますます重要性を増す技術として3Dをアピールする。また、あくまで副次的な効果としながらも、3D上映のスクリーンを撮影しても2重像にしか見えないので、盗撮にも対抗できるとしている。

米国では3D話題作の公開が相次いでいる

Dolby 3D方式で上映される映画館に掲示されるロゴマークを掲げるDolby Japanの漆山正幸社長

3D映画自体は20世紀初頭から存在し、実はトーキーよりも歴史は古い。説明会冒頭であいさつした同社代表取締役社長の漆山正幸氏は「(3D映画には)過去何回かブームと呼ばれるものがあったが、どちらかというと一過性で、大きなうねりには至らなかった」と認めながらも、デジタル上映技術の登場によって過去の弱点は払拭されたと話す。音響の3D化技術であるサラウンドで事実上の世界標準の地位にあるDolbyとして、映像についても3D化を推進したい考えを強調した。