FTF Americaでの氏の基調講演はこの3つのテーマを細かく掘り下げながら、実際に動作デモなどを交えて紹介してゆくものだが、今回そうした役割は高橋氏に譲り、もうすこし簡単なものとなった。

The Net Effectでは、携帯などの普及が進み、より高速・広帯域が必要になることに触れ(Photo03)、ここに向けたソリューションとしてクライアント向けにLTEのソリューションを発表したこと(Photo04)、およびサーバ側に対してQorIQプラットフォームの提供を開始したこと(Photo05)を紹介した。

Photo03:日本オリジナルのスライドその1。どうせならYouTubeとかニコニコ動画の画面にすればよかったのに、と思わなくも無い。

Photo04:動画のサンプルがアメリカのものと異なるが、内容は一緒。もっともアメリカは実際の動作デモが行われたが、流石にデモシステムを日本に持ち込むのは無理だったようだ。

Photo05:こちらはアメリカと一緒の話。とりあえず新しい情報は無し。

アメリカでは、やはりMotorolaの不調もあって大幅に後退した携帯向けビジネスの建て直しということもあってかLTEにかなり熱を入れていたが、日本では携帯向けビジネスそのもののに食い込めていない事もあってか、ややさらっと流した感がある。むしろ基地局に向けたビジネスとか、有線のネットワークに向けたQorIQの方がインパクトがあるのかもしれない。

次いでHealth&Safetyに関しては、これもアメリカでも発表した、Monebo CardioBeltの話が紹介された(Photo06)。これは何か?というと、心電図モニタを内蔵したベルトである。不整脈を患っている患者がこれを着用することで、常時心電図をモニタし、結果をWirelessで飛ばしてくれるというもの。今年5月にFDAの認可も降り、アメリカなどで発売を開始している。

Photo06:ちなみにアメリカでは、実際にこれを着用した患者さんが壇上に上がって利用感を説明したり、といった一幕も。華々しい話ではないのだが、こうしたクリティカルなエリア向けのSolutionも出している、というあたりにインパクトを感じられると思う。

FreescaleはMonebo Technologiesと共同でECG(Electro Cardio Gram)のためのソリューションを提供しており、CardioBeltに使われているセンサ部以外に、ここからのデータを受け取って分析する部分のソリューションなども提供している。日本でこれがそのまま使えるという訳ではない(まだ厚生省の認可は通っていない)が、こうしたHealth&Safetyに関する取り組みの一例が示された形だ。

最後のGoing Greenに関しては、大きく2つの例が示された。まずはHART Communication FoundationのHART(特に新しく制定されたWirelessHART)に準拠したデバイスに対して、ColdFireやi.MXといった同社の製品をベースに構築するためののSolutionを提供する事(Photo07)。

Photo07:こちら、日本では軽く事例に触れただけだが、アメリカでは実際にHARTデバイスを使っての動作デモなどが行われた。

もう1つは4stスクータ向けEFIの話である(Photo08)。まずHARTの方であるが、これは産業用機器をオンライン化するための規格である。ここでいう「産業用機器」とは、圧力メータとか流量メータ、気体の濃度センサ、様々なバルブ類、温度センサなど、工場とかプラントで利用される類のものを指す。こうしたものを監視あるいは制御するための通信プロトコルがHARTであるが、ここむけにFreescaleはWired/Wirelessの省電力ソリューションを提供する。

Photo08:日本ではVOXという名称で発売されている、YAMAHAのC3という50ccスクータ。おそらくは2008年モデルであろう。ちなみにこのC3のウリは115mpg(概ね49Km/l)という低燃費。スーパーカブの111Km/l~116Km/lには遠く及ばないが、これはテストの条件が違う(スーパーカブは30Km定地走行テストの結果。C3はEPAの排気基準にあわせた場合の推定値)からである。カブも60Km/h近くで走らせると概ね50Km/l程度の燃費になるから、まぁいい勝負ではないかと思う(VOXの方は30Km/hの定地走行テストで65.0Km/lという燃費となっている)。もっとも主要な話はむしろ排気の問題。ホンダのスーパーカブも、OHCのままながらPGM-FIやキャタライザを搭載しており、これもいい勝負ではないのか?という気も。

またスクータに関しては、排ガス規制の話に絡んでくる。途上国などでは、今も非常に多くの2stスクータが利用されているが、この2stスクータは二酸化炭素の排出源として無視できないだけでなく、粒子状物質(PM)や窒素酸化物(NOx)などの発生源でもある。日本においても2009年10月から、ポスト新長期規制と呼ばれる新しい排ガス規制が適用される事になっており、二酸化炭素やPM/NOxの排出源である2stスクータに変わるものを提供してゆく必要がある(Photo09)。これに対してのヤマハ発動機の回答の1つが前出のC3であり、このEFI(Electric Fuel Injection)にFreescaleのMCUが使われている。こうした形でGoing Greenに貢献している、というのがFreescaleの主張である。

Photo09:いまいちこの数字がどこから出てきているのが不明(特にNOxの0.11という数字がわからない)が、規制が大幅に強化されることそのものは事実。こうした規制は日本だけではなく、例えば欧州はEURO2-1996→EURO4-2005→EURO6-2014と9年ごとに段階的に厳しくなっており、PMやNOxのみならず、HC(Hydrocarbon:炭化水素)やCO(一酸化炭素)も大幅に削減することが求められている。

ところで、これもアメリカのFTFに習ってか、氏の講演の途中でFTF Design Challengeの発表が行われた。日本におけるDesign Challengeの最優秀賞は川野亮輔氏の「電動アシスト自転車のアシスタント装置」が受賞、表彰式が途中で行われた(Photo10,11)。

Photo10:ちなみに審査員は米国のスタッフだそうで、このスタッフに説明するために日本のスタッフが全ての応募作品を実際に使って確かめたとの事。この自転車アシストの場合、フリースケールのある目黒駅前の権之助坂を使い、実際にスタッフが何度も漕いで走って「確かにこれは効果がある」と確かめたとか。ちなみに権之助坂はかなりの急坂で知られている場所で、スタッフの方もご苦労様である。

Photo11:Rich Beyerと並ぶ受賞者の川野氏。氏は1万ドルの賞金に加え、FTF Design Challengeの世界大会への参加資格も与えられた。